小説

□待ち合わせにいつも遅れる彼女 生×譜
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「ごめん!遅くなって!」





そう言って待ち合わせに1時間遅れて登場したのは、走ったのか息を切らした聖





まったく、寝坊も大概にしいよ




と言ってもいつもの事だから慣れとる




聖はしっかり者に見えて実は時間にルーズな部分があって




仕事には絶対遅れないのに、プライベートじゃ遅刻なんてしょっちゅうで


えりとのデートなんて遅刻しない方が珍しい



まあ、仕事のときはえりがモーニングコールするからね





え?なんで今日しないのかって?





オフの時くらい寝かせてやりたいやん?



それに寝坊して必死に走ってくる聖が可愛くて何回も見たくなってしまうわけ



だから1時間の遅刻なんてえりは全然気にしとらん


むしろ遅刻した聖を見たい


って、えりってばどんだけ聖にベタ惚れなんって話よね



あ、それに遅刻してきた聖に意地悪するのもえりの最近のマイブーム








「えりにキスしてくれたら許す」




「え!?ここで!?」


目を真ん丸くして驚く聖


聖が驚くのも無理は無い

ここは渋谷の駅前




人がうじゃうじゃ居るわけで





キスなんてできたもんじゃない




焦る聖




可愛い





ニヤけるのを我慢してもっと意地悪をしてやる




「じゃあえり帰ろっかな〜」




クルッと向きを変えてそう言ったら”待って”と言う言葉と共に掴まれる服の袖





振り向くと聖は俯いていて





「本当にキスしたら許してくれる?」




潤んだ瞳で見つめてくる聖






や、やばい



そんな目で見んで




このまま抱き締めてしまいたい衝動に駆られる




ダメダメ これは遅刻した罰なんだから





落ち着け、えり





「はよ、キス」






そう短く告げたらチュっという音と共に短く触れた唇






目の前には顔を真っ赤に染めた聖






「短い」





満足してるはずなのにえりの口からはそんな言葉が出た




あの聖がこんな場所で自らキスしただけでも奇跡なのに



聖の困った顔を見たくてこんな風に意地悪してしまうえりは小学生以下なのかもしれない






そんな事を考えながら聖の反応を楽しむ





「え、えりぽん
これ以上は無理だよお…」



返ってきた予想通りの答えに




「しょうがないなー」




呆れたフリをして答える




「ごめん……んぅっ!?」







そして聖の言葉を遮って唇を奪った




口付けると同時に唇に柔らかくて心地の良い感覚が伝わる


そしめ鼻を掠める聖の匂い
この匂いが堪らなく好きで
堪らなく、愛おしい





いつもなら舌で聖の唇をつつけば開く唇も硬く閉じられていて舌の侵入を拒まれる



そんな事をしても無駄なのに



まあそっちがその気なら…





必要以上にキスを長くする




すると、ほら





酸素を求めて口が開く





えりはその隙を逃さなかった





深く口付けて綺麗な歯列をなぞる
舌を絡めては吸い、絡めては吸いを繰り返すと荒くなる聖の呼吸




唇を離すと聖は真っ赤な茹で蛸みたいになっとって




それを隠すように両手で顔を覆う聖もどうしようもなく可愛い



こういう聖の仕草一つ一つにも恋してるんだとさえ思う



そのくらい愛おしい




「そんな恥ずかしがらんでもよかろ」





「だって誰か見てたからどうするの」




「見せつけてやればよか

えりの聖だぞ!って」




そう言うと聖はますます顔を赤くしてうーー何て言って唸る



聖は何やらブツブツ言っているが上手く聞き取れん





「ほら、聖行こ?」




そう言って手を差し出せば、さっきの表情なんて嘘みたいにニコーっと極上の笑みを向けながら指を絡めてくるとっても愛おしいえりの彼女


こんな顔えり以外に見せたらいかんよ?


みんな虜になってしまうけん




ふわふわした指がとても心地良くて




誰にも渡したくなくなる





その指を絡めたままの手を口元に持って行って手の甲にキスを落とした



ハンドクリームを塗っているのだろうか
とてもいい匂いがした



女の子らしい匂いなのに甘すぎず、きつすぎず



聖らしい匂い



もう片方の手で頭をぽんぽんと撫でる



髪の毛に指を通すと風に乗ってサラサラと柔らかい髪が揺れた









ふと聖の顔を覗き込むとなぜかほっぺを膨らませてムスッとしとって



なん、この可愛い生き物は


思わずニヤける





「どうしたと?」



そう聞けば




「聖の方が年上なのに子ども扱いするんだもん」




返ってきたのはそんな可愛らしい答えで





「あっはは」



「もう!笑わないでよ!」



「笑ってなかよ」




「笑ってた癖に」



「そんなムスッとしてると可愛いお顔が台無しやろ?」




「元はと言えばえりぽんが悪いんじゃん!」




「はいはい、分かったからはよご飯いこ?

お店混んでしまうとよ」



「そうやって誤魔化す」




「今日は捻くれ聖の日なん?

まあ、えりはどんな聖も好きやけど」






「聖も好きだもん…





聖もえりぽんの事好きだもん!!」





ちょ、聖声がデカい




周りを見渡すと案の定えり達の方を見てる人ばっかりで



聖も我に返ったのかポッと赤くなっている




「大声で愛の告白ありがとう」



そうニヤニヤしながら言えば




「もうっ、えりぽん行くよっ!」




グイグイ引っ張られる手




その指はまだ絡んだままで





ズカズカと人混みを掻き分ける聖の後ろ姿にフッと笑みが溢れた

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