小説

□ちっぽけなプライド 生×譜
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「ふくちゃ〜ん」


「りほちゃんっ
やめてくすぐったいよぉ」



イラ





「ふくちゃんの二の腕〜」





イラッ







コンサート前の楽屋

何でえりがさっきからイライラしよおかって?



原因は目の前の2人にあると




里保はさっきから聖にべったり



聖も聖でそれに応じ、イチャイチャしよる




えりと聖は付き合ってはいるものの、進展は何もない



変わった事と言えば頻繁にLINEをするようになった事




本当にそのくらい








それなのに最近聖はやたらと他のメンバーとじゃれ合う




聖は人柄がいいけん、周りに人が自然と集まる





まあそこにえりも惹かれたくらいやけんね






自分ではそう割り切ってるつもり







でも

聖はえりのなのに…



そんな考は簡単に消えてはくれなくて









聖も聖っちゃん




なんで里保とそんなに仲良くしとおと?




自分は誰のものか自覚して欲しか





それとも、もうえりなんて必要なかと?




里保が好き?








だとしたら












…気に入らん








「んーーー ふくちゃ〜ん」



調子に乗って里保が聖に抱きつき始めよおし




「もぉ〜やめてよぉ」






聖もまんざらじゃなさそう




するとどさくさに紛れて里保が聖のほっぺにキスしよった





……ブチ






黙ってればいい気になりよって




ふざけんな





「聖」



えりはおもむろに立ち上がって聖の腕を掴む




「え、えりぽん!?」





聖は驚いたような声をあげとお




この様子だと完全に無自覚だったみたいっちゃね






まあそんなのも今は関係ないけん








「えりちゃん!!」




里保の焦った声なんて聞こえんフリ





聖の腕をグイグイ引っ張って楽屋の外にでる




「ちょ、ちょっとえりぽん!!」





そんな聖の言葉にだって耳を傾けてやらん





そんな余裕、無い







人気の無い廊下を無言でズカズカと歩いて物置部屋に聖を連れ込んだ




連れ込んだ物置部屋はあまり使われていないのか少し埃臭い





ドアを乱暴に閉めて鍵をかけると聖がビクッと体を震わせた










「怒って…る?」



状況が上手く飲み込めてないらしい聖はおずおずと尋ねる




はあ、もう少し自覚してほしいっちゃん…









「聖は無防備過ぎったい」





「えっと…何が?」










ここまて言っても分からんとかいな!?





「里保」


そう短く告げる





「里保ちゃんがどうかした…?」






もう頭きた






無自覚にはお仕置きせんとね






聖に一歩一歩詰め寄る




聖も危険を察知したのかえりが近づくのに合わせて後ずさる





それすら気に入らん





なんでえりから逃げるとかいな



そんなに、えりが嫌い?












物置部屋なんてそう広くはない訳で、えりは簡単に聖を壁際に追い詰めた






「聖は 自分が誰のものか自覚する必要があるみたいっちゃね」








聖の顎をクイっと持ち上げて視線を合わせる











合わせた瞳は潤んでいて、えりを煽っているようにしか思えん








「……ちょっ、えりっ んぅ!?」







乱暴に聖の唇を奪った







聖の中から里保が無くなればいい

えりだけみて


えりがおれば他の人なんて要らないって言って







そんな汚い考が頭を埋め尽くす




本当は分かっとる



聖は誰のものでもない事も




みんなに好かれる性格な事も





あまり強く断れない性格な事も








全部、分かっとる









こんな事ただのえりの我儘





でもこうでもして聖の気持ちを確かめんとえりはおかしくなってしまうとよ









「ね、えりぽっ んぅっ」





聖が抵抗する度に噛み付くように唇を奪う





何で嫌がると?



里保の時はあんなに嬉しそうやったのに





えりより里保がよかと?





えりはもう聖は必要ないと?




こんなに好きなのはえりだけ?








ムカつく








「里保の事、好きなん?」








こんな事聞きたい訳じゃないのに




こんなん聖を困らせるだけなのに…









「ん、はぁはぁ り…ほちゃん?」







余裕無く答える聖はやっぱり可愛くて





でも今はそんな素振りなんて見せてやらん





えりばっかり好きみたいで嫌やけん






そんなちっぽけなプライド





捨てられないちっぽけなプライド





捨てられればきっと楽なプライド











「さっき里保と密着しよったやろ」






唇を離して冷たく告げる





「え、あっ、それはっ んんん」









言い訳なんて聞きたくない





なんて、本当は違うのに



聖に、えりだけだよって言って欲しい




好きなのはえりだけだよって








他の誰よりも好きだって言って欲しいのに




答えを聞くのが怖くてこんな事をしてしまう






答えを聞いて里保の方が好きって言われたらどおすると?






えりは生きていけん…





だから答えを遮るようにキスをする





「んんっ、くるしっ …えりぽっ」






聖は相当苦しいのか、えりの胸をグイグイおしてきよお





流石に可哀想に思い唇を離すとはあはあと荒い呼吸を繰り返す聖






「聖は大体無防備すぎったい
あんな風に誰にでも触らせると?



……えりのものなのに」





すぐキスしようと顔を近づけるえりに







「えりぽっ、ちょっとまっ「待たん」」




抵抗する聖






そのイライラを晴らすように深く口付ける





「は…ぁ」





時折唇の間から溢れる聖の声がえりを煽る






「もう、しない、からっ…えりぽ…んっだけだか…ら…んんぅ」






唇のから途切れ途切れに紡がれる言葉はどれも愛しい



でも許してなんかやらん



「そんなん信じられん」





そう言ってもう一度口付けようした時、聖の頬に涙が伝ってるのに気づく







聖、泣いとお?






掴んでいた腕を離すと、聖はその場にへなへなと座り込んでしまった



ちょっとやり過ぎたかもしれん



そう思った頃にはもう遅くて






「えりぽんはさ、ずるいよ
いつもはほったらかしのくせして

こんな時だけ…」





聖がぽろぽろと言葉を溢し始める





「聖がえりぽんの前でわざと他のメンバーとイチャイチャしてる時は気づいてくれないのにっ」









わざと…?











「えりぽんはずるいよ…

相手にされなくて寂しいっていつも思ってた


それでやっとえりぽんは鈍感だから仕方ないって吹っ切ったのにぃ…


なのに、なんでっ 」





目を真っ赤に腫らして泣きじゃくる聖




聖はどうやらとんでもない勘違いをしとおらしい








「聖…」






えりもその場にしゃがむ




聖は体育座りをして頭を抱え込んでしまっとおけん、顔が見えん








「聖、顔上げえって」





「やだ」




返ってきたのはそんな捻くれた答え



そんな聖も駄々っ子みたいで可愛か







なんでこんなにも、こんなにも愛おしいんだろう





どうしてこんなに聖が好きなんだろう








「聖、お願いだからこっち見て」




優しく言うと聖はゆっくりと顔を上げる





その顔は涙でぐしゃぐしゃで


とても弱くて





堪らんくなって抱き締めた







「えり、聖をほったらかしにした事なんてなかとよ

我慢してただけったい」




「……ふえ?」




耳元で聞こえる拍子抜けしたような答え






「だって聖 色んな人と仲良いやん


そんなんにいちいち嫉妬してるってバレたらえりだけ余裕無いみたいで嫌やったと」





初めてこんな事言うけん照れくさい




体を離して聖の顔を見るとキョトンとしよってそれが半端なく可愛い







少し間が空いた後





「もーーーー
えりぽんのバカ!バカ!バカー!

聖がどんだけ1人で悩んだと思ってるの〜っ」






聖は抱きついてきて、えりの首に顔を埋めながら背中をぽこぽこと叩いた



そんな聖を見て自然と笑みが溢れる






「それは聖が勘違いしてたのが悪いと」








「…でもよかった。好きなの聖だけじゃなくて」









そんなの…










「当たり前やろ」







抱き締める手に力を込める




もう離してなんかやらん




例え聖がえりを嫌いになったとしても、絶対離さん





誰よりも優しくて、人柄がよくて、でもちょっとドジで




お嬢様で、感覚ちょっとずれてて、お姉さんぽいかと思えば子供っぽくなってみたり







こんなお姫様扱えるのえりしかおらんやろ?





聖は絶対えりが幸せにするけん




他の奴になんて渡してやらん















なあ、聖


「好き」



頭を優しく撫でながらそう告げる






「ふふっ 聖も」





「ちゃんと言って」



そんな我儘を言うと




「もー、しょうがないなあ



えりぽん」





えりの耳元に唇を近づける聖




ゼロ距離でダイレクトに響いてきた言葉






”愛してる”







心臓がキュゥゥってなって、バクバク脈打っとお





こんなにも好きなんやって思い知らされる







「えりも愛しとお」




見つめあって2人で微笑み合う




そしてどちらからともなく甘い甘いキスをした












「譜久村さーん!!!生田さーん!!!
どこですかー!本番始まりますよーー!」





2人で幸せの余韻に浸っていると、ドア越しに聞こえてきた亜佑美ちゃんの声





…いかん!!
そう言えば本番前やったと!!







「えりぽんどうしよう メイクが…」





聖は泣いたせいでメイクがボロボロ





「えりがメイク手伝うけん、はよ行くと!!!」



2人は楽屋へと一目散に駆け出した





もちろん手をしっかり握りって

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