小説

□これから 石×道
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「…みちしげさん」



コンサートを終えたホテル
ベランダで空を眺める道重さんに声をかける。



今日は道重さんと部屋がたまたま一緒になった。



滅多に一緒になる事なんてないのに。




嬉しい反面、ちょっぴり寂しい。








少しでも長く道重さんの隣に居たくて外履きに履き替え、ベランダに出る。




4月の終わりの涼しい風が髪を揺らす。




道重さんは今何を考えているのだろう。


どんな気持ちなんだろう。


そんな考えが頭の中をグルグル駆け巡る。








「ねえ、石田」



不意に名前を呼ばれて横を見ると綺麗な星空をバックに映し出される道重さんの横顔



あまりに綺麗で、儚くて息を飲む




「どうしたんですか みちしげさん」



そんな動揺に気づかれないよう、精一杯いつも通りに答える




「…ううん、何でもない」



「なんですか〜
気になるじゃないですか」



なんて、おどけてみせるけど




だめだ


いつもみたく話せない。




ここで気の利いた冗談を言って場を和ませさられたらよかったのに。




そんな事を考えながら俯いていると










「部屋、一緒になれてよかった」





夜風に乗ってそんな一言が聞こえてきた。



泣きそう


泣いちゃだめ




泣いちゃ、だめ



泣いちゃだめなのに…




その思いとは裏腹に堪えていた涙が溢れた。




「私も…です」



必死に言葉を紡ぐけど、途切れ途切れで




すると、空を見上げていた彼女がゆっくりこちらに視線を向ける。



目が合うと優しく微笑んで


「泣かないで」


一生の別れじゃないんだから、なんて言って笑ながら服の袖で私の涙を拭ってくれる。



「あと少しだけど、思い出いっぱい作ろうね」



「はいっ」



私は涙でぐしゃぐしゃになりながら、とびきりの笑顔で答えた。●●
 

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