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ただ歩いているだけなのに、汗が流れてくる。天気予報は今日も、熱中症に注意を繰り返していた。
特に目的があって出かけたわけではない。ただ緑谷と、どこかに行こうという話になったのだ。
右となりを歩く緑谷は、「暑いね」と額を拭っている。やっぱり、こんな日に出かけるのは間違いだったかもしれない。涼しいところは、どこだろうと考えて、ふと思いついた。

「緑谷、手、出して」
「て?」

意味がわからない顔をしている緑谷に、もう一度、今度は自分の右手のひらを出しながら「手を出して」と言った。
緑谷は、やっぱりわからないという顔をしていたが、左手を出した。俺はそこに右手を重ねる。そして、できるだけちいさなちいさな力になるように、個性を出す。緑谷の左手からパキパキとちいさな音が聞こえた。俺はそっと右手をのけた。緑谷の手のひらにちいさな氷ができていた。

「すごい!」

まるで俺の個性をはじめて見たとでもいうように、キラキラとした目でこちらを見た。

「ちょっとは涼しくなったか?」
「うん!」

緑谷は手のひらの上で氷を転がしている。こんなに暑いけれど、すこしは保つだろう。

「溶けたら、また作るよ」
「ありがとう」
「俺も涼しいし」

左の個性を使いすぎると冷気に震えることもあるが、ある程度ならこちらも涼しい。

「そっか。轟くんて便利だね」
「便利?」
「だって、暑かったら右の氷、寒くなったら左の炎ってね」
「俺は家電かなんかか?」
「あはは!」

緑谷は笑う。

「寒くなったら、左側歩かないとね」
「なんで?」
「だって、そのほうが炎出しやすいでしょ?」
「そうだな」

便利な奴でもいいか。
お前のためだったら、氷でも炎でも出してやろう。

「あ、溶けた」
「はいはい。手、出して」

それは、つまり俺のとなりにお前がいるってことなんだろ?


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