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□エンデヴァーのお誕生日
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「今日はエンデヴァーの誕生日だね!」
緑谷に呼び出された。会いに行くと、開口一番のセリフがこれだった。
「フレイムヒーロー、エンデヴァー!彼の誕生日を祝わないでどうするんだ」
いつもより数段テンションが高い。
「お前、俺の親父のこと、怒ってなかったか?」
「それはそれ、これはこれ。今日はお祝いだから」
満面の笑みをこぼしている。それよりも、
「なんで、誕生日なんて知ってるんだ?」
「プロのヒーローはプロフィールとかも公開されてるからね」
「なるほど」
事務所のホームページとか、ヒーロー名鑑とかか。
「轟くんは何もしないの?」
「しない。きっと姉さんたちが何かするだろうし、俺がしても喜ばないだろう」
「そんなことない。きっと喜ぶよ、エンデヴァー」
そう言われても、祝う気持ちなんて……
「じゃあ、これからプレゼントを買いにいこう」
「は?」
「行くよ、轟くん」
ズンズンと歩き始める緑谷。その勢いに負けて、俺はあとをついて行った。
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とりあえず、いろいろな店が入っているということでショッピングモールへとやってきた。
緑谷は、もう何を買うか決めているらしかった。和菓子屋へと向かう。
「くず餅だよ」
「くず餅?」
「そう。エンデヴァーにはケーキよりもこっちかなって」
「なんで?」
「だってエンデヴァー、くず餅好きでしょ?」
「そういえば」
思い出そうとしなかっただけで、好物なら俺も知っていることだ。
むかしは、いっしょに食べたこともあったか。
「プロフィールにでも載ってたのか?」
「ううん、エンデヴァー好物でググったら出てきた」
「…ググったのか」
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「轟くんは、どうするか決めた?」
和菓子屋に入るまでにも、いろいろな店があった。
食べ物、服、靴、小物……
「……いや」
俺は首を振った。
「じゃあ、いっしょにくず餅買おう」
「2個もいらないだろ」
「そうじゃなくて、お金半分こしよう。それで、ちょっと高いほうを買う」
緑谷は、選ぼうとしていた商品より、ひとつ高い商品を指さした。
「轟くんと僕からってことで」
他に何をあげたらいいのかなんてわからない。俺は緑谷の提案を受け入れた。
くず餅の入った紙袋を下げながら、帰り道を歩く。
「うちに来るんだろ?」
「どうして?」
「コレ、渡さないと」
コレと言って、紙袋を持ち上げた。でも緑谷は首を横に振った。
「僕は行かない。それは轟くんが渡してよ」
「なんで俺が」
「だって轟くんと僕から、でしょ?」
そこで、やっとわかった。どうして緑谷が俺を呼び出したのか。
はじめから俺にお祝いをさせるつもりだったのだ。
「お節介め」
きっとひとりだったら、何もしなかった。そのお節介がすこしだけ、ありがたいと思った。
「俺が渡すのか……」
紙袋を見つめながら、渡すときは一言“おめでとう”くらい言ってやってもいいかと思った。
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