読み物(SF乾海)

□そのドアの向こうに
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 その沈黙を破ったのは、乾のほうからだった。
 冷静を取り戻した乾は、今の現状を正しく話したほうがいいと判断した。それに、海堂(部長)なら信じてくれるような気がしたから。

 「海堂部長・・・あなたは平行世界とか多重世界とかって信じますか」

 眼鏡を中指で上げる。
 これは、海堂に筋道立てて話す時にする癖。

「・・・・パラレルワールドとかいうやつか?」

 彼の言葉に頷く。

「自分のいる世界と似たような世界がいくつもある・・・。信じるか信じないかと問われても、見たこともない世界を信じる方が難しいんじゃないのか・・・?それに本当にあるんなら・・・俺たちが全国優勝した世界もあるってことだろう?悔しいじゃないか。だから信じない」

 トレードマークのバンダナで覆われていない彼のサラサラな髪の毛を風が弄んでいく。

 「あなたは、さっき、俺のこと乾じゃないっていいましたよね」

 「悪かったって」

 乾は、なるべく誤解のないように、抑揚を極力減らして淡々と言葉を紡ぐ

 「あなたは謝ったけれど、その通りなんです。俺はこの世界の乾貞治じゃあ、ない」

 そのとたん、彼の表情が一気に曇った。

 「俺は・・・違う世界からきた乾貞治です。昨日、色々あって、朝から頭痛がして、放課後まで第三資料室で休んでました。そこへあなたが現れたんです、そして・・・」

 「もういい。・・・断るなら、もっとましな嘘つけよ」

 ポツリと呟く言葉じりを捕えた。

 「嘘じゃない!・・・聞いて下さい」

 この場から去ろうとする彼の両肩を鷲掴みにして、乾も食い下がる。
 ここで信じてもらえなければ、彼を傷つけたままになる。
 
 「俺は本当は中学3年なんだ。今日は、確かに部会議の予定だったけど、引退したのは俺たちだ」

 「それを・・・信じろって?・・・じゃあ、証拠は?」

 至極、まっとうな質問だった。
 証拠・・・俺が、この世界の人間ではないという証拠。
 不意に、ポケットに入れておいたメダルを思い出した。
 今朝、学園長室に報告に行ったとき、持っていったもので。そのままポケットに入れてしまっていたのだ。
「証拠は・・・ここに」


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