読み物 けれど空は蒼シリーズ(乾海)2016/4/11完結


□15.帯礪之誓
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 海堂のアパートに着いたのは、夜もとっぷり暮れた夜の9時。
 リビングに入るなり、乾は大の字に寝転がった。
 今日は慌ただしい一日だった。
 朝から友達のフィギアを買いに行かされ(自分で引き受けたのだから致し方ないのだが)
 帰ってきて海堂と濃密な時間を過ごし、少し寝た後、中学の部活に顔を出し、最後に海堂のトレーニングのデータ収集。

 でも

 研究がらみの疲れとは違う。
 もっと、すっきりとした疲れ。
 久しぶりに感じる心地いい疲労感に、乾の瞼がだんだん重くなるのを感じた。

「先輩、俺、明日午前中だけですけど仕事なんで、今のうち洗濯します。
洗濯物あったら出してください。明日の夜までには乾きますから」

 海堂はというと、そのままリビングではなく洗面所に向かい湯船を張って、洗濯物をまとめていた。
 しかし、返事がないことを訝しげに思い、リビングのドアを開けると、ものの見事に、眠ってしまっていた。

「ったく・・・」

 その寝顔を見つめる。
 笑っているように見えるのは気のせいだろうか。
 
 しかし

 途端に気づいて

 すごく

 胸が痛くなった。

 乾と過ごせる時間は、後、1日しかない。
また、向こうへ行ってしまうのだ。

「先輩・・・」

 海堂は乾がかけっぱなしにしている眼鏡をそっと外した。
 目は閉じられたまま、ピクリとも動かない。
このまま時間が止まれば・・・
 などと思った自分の思考を、海堂は恥じた。
 こんな考えでは、いつまでも自分たちの目指すところへ行けやしない。
 自分がしなければならないのは、ここで寂しがることではなく、まずは次の大会で結果を残すこと。
 少しでもランキングを上げて、世界へ出ていけるだけの技術はもちろん知名度をあげること、それのみ。
 海堂は自室の布団を乾にかけ、ゆっくりとバスルームへ向かった。

「・・・俺が起きないわけないだろうに。まったく・・・・強いなぁ・・・海堂は」

 バスルームのドアが閉まってから、乾はゆっくりと目を開けた。
 体の上には、海堂が使っている羽毛布団。
 全身が海堂の匂いに包まれて幸せを噛みしめた。
 乾だって思っていた。
 一緒にいられるのは、後一日。
 今日一日、楽しかったから思い出さないようにしていただけ。
 目頭が熱くなって、気を抜いたら涙がこぼれそうだ。
 大きく深呼吸して、腹にぐっと力を入れて起き上がった。
 明日は大学に行って資料をもらってこよう。 海堂に負けないように自分も前に進まなければ。
 しかし、まずは今日の海堂のデータを分析して今後のトレーニングメニューを作ろう。
 乾はPCとデータノートを机に出して、分析を始めた。

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