読み物 けれど空は蒼シリーズ(乾海)2016/4/11完結


□11・五里霧中 inui side
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車の中は終始無言だった。
俺は、帰り際に言われた越前の言葉を、頭の中で反芻して、反芻して、反芻しすぎて気持ちは最悪だったし、
海堂といえば、俺に一度声をかけたきり機嫌を敏感に察知したらしく、その後は押し黙ったままだ。
正直、息苦しさを感じていただろう。
しばらくすると「スースー」と寝息が聞こえてきたので、赤信号で止まった時に横目で確認すると、気持ちよさそうに眠っていた。
きっと、車の適度な揺れと、静かなBGM、あとは先ほどのテニスの疲労が重なったのだろう。
願わくば、俺に会えたことへの安心もあってほしい。

『乾先輩、王子様っていうのはお姫様がピンチの時に必ず来るもんだよ。次はキスされる前に助けてやってよね』

この越前のセリフから察するに、海堂は越前にキスされたということなのだろう。
俺は、この悲しみにも怒りにも似た気持ちをどこにぶつけていいか分からず、無言で海堂のアパートへ向かった。

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