短編
□In due persone
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そこで、私が見たものはまさに「狂犬」そのものだった。
興奮した様子で、既に息絶えた「人間」だったものの皮をナイフで器用に剥がしていくジュリオ。
周りが何も見えてない状態なのだろう。
その様子はまるで、子供が夢中になって玩具で遊んでいる様な…そんな風にも見て取れた。
その瞬間先程のジュリオの部下の言葉が発した意味を理解したと共に「なんてこった…」と思った。
だが、そんなことで立ち止まってはいられない。連れて帰らなければならないのだ。
私は、ジュリオに近づいた。気配を消すということはしていない。いつものジュリオなら、直ぐに気付けるほどに私は気配を全く消していない。
だが、ジュリオは気付いているんだかいないんだか、私に目を向けることなく目の前の塊に夢中になっていた。
「ジュリオ」
「ハッ…ハッ…」
気付かない。普通に声をかけただけでは見向きもしない。
私は一際大きな声でもう一度呼びかけた。
「ジュリオ!…ジュリオ!」
そう呼びかけると、気付いたのだろう。肩がピクッと一瞬揺れた。
このチャンスを逃すな…!
そう、私の脳は叫んだ。
「ジュリオ!もう、帰ろう!!そいつはもうそれで充分だ!」
「で、でも…」
「ンなヤツら、それ以上弄った所で何もならないだろ?…早く帰ろう?」
そう言うと、ジュリオはハッとした顔をしてから自身が先程まで弄っていた塊を見てからワナワナと震え始めた。
「あ…俺…また…ごめ…なさい…ごめん、なさ…」
譫言のようにそう言い始める。どういうことだ?
「ジュリオ?」
「ごめ、なさい…俺、ヘン…ですよね…汚い…ですよね…」
今にも泣きそうな声でそう言うジュリオ。
その様子は何かに怯えきった…子供のようで…
「別にお前はヘンじゃないし、汚くないよ。」
だから、私は優しく声をかけた。いつもとほとんど変わらないトーンで。男装している時ではない、自分の本来の声で。
「でも、俺…こんな…」
「お前の何が汚い?むしろ、そっちに転がっているそいつらの方がよっぽど汚いよ。それに、ジュリオが汚いなら、私はもっと汚い人間だよ」
「え…ナギサ…?」
「ジュリオ帰ろう?」
もう一度、そう言い手を出す。
「嫌いに…ならない…?」
か細い声でそう聞き返してくる。
「嫌いになんてならないよ。私はジュリオが大好きだからな。それに…」
そう言って、彼の方を向いて言う。
「わざわざお前一人で汚れる必要なんてないし、汚れたなら綺麗に拭き取ればいいさ。それでもお前が気になるというなら…」
そう言い、すぅっと息を吸い込んで…吐き出す。
「それならば…どうせ汚れるなら…私も一緒だ…お前が一人で全て背負う必要はないよ。二人一緒に汚れて、その汚れは一緒に洗い流そう。」
そう言うと、ジュリオはその綺麗な紫の瞳に涙を浮かべながら嬉しそうに、綺麗に笑った。
「はい…わかり、ました…」
「よしよし。それと、私に対して敬語は使わないよーに!…ね?」
ジュリオは戸惑いながらも、微笑んで「わかった…」と言った。
本当に、綺麗な顔してるなぁ…
「よしっ!帰ろう!そんで、帰ったら一緒に何か食べよう!ジュリオは何が良い?」
そう聞きながら、右手を差し出す。そして、その差し出した右手をジュリオはそっと触れてから、優しく握り返す。
「甘い…ものが、良い…ナギサは…?」
「私も疲れたし、甘いものが良いな。よし、帰ったら甘いもの一緒に食べよう!」
そうして、私とジュリオは本部に帰った。
部下の人の前を通り過ぎた時に小声で「ありがとうございます」と言われ、チラッと横目で見ると本当に嬉しそうにしてその部下は頭を下げていた。