みんな大好きお兄ちゃん
□憂さ晴らし
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「孝助くん、荷物はその辺りに置いてくれてかわまないよ」
「分かった」
平日ど真ん中の今日、俺と隆明さんは2人きりで剣崎家の別荘へと到着した。
さて、たまには回想でもしてみようか。
あー、遡(さかのぼ)ること昨日の夜、ジンと喋りながらくつろいでいたら突然寮部屋に隆明さんが(鍵を開けてリビングに)やって来て、開口一番にこう言った。
「明日から3日間、スケジュールを調整して休みを作ったから体育祭のデート権を使って孝助くんも休みにしておいたよ」
拒否権が無いどころか決定事項。
しかも教師じゃ無いのに俺のデート権を(勝手に)行使するなんて、さすがは暴君の名を欲しいままにする隆明さんだ。
「それで明日の朝7時に出発するから、それまでに必要な物は纏めておくんだよ」
「え、ああ」
「では、おやすみ」
「え、ああ、おやすみ」
最後に就寝の挨拶を交わすと、見送る暇も無く最高権力者様は颯爽と寮部屋から退出していった。
彼がこの部屋に来てから帰るまで5分も掛からなかったぞ…早いな。
「孝助、俺はいま、限りなく万物に浸透する筈の孤独なるairだ」
「なんか、すまん」
一緒にリビングに居たジンは、どうやらぼっちで空気的な感じが寂しかったらしい。
それから俺は何も考えず急いで荷造りをする事しか出来なかったけど、2泊3日って何をすれば良いんだろうか。
「学園にはもう慣れたかい?」
「あー、まあ、まだ分からない事も有るけど、友人達が色々教えてくれるから問題無いと思う」
何度か来ているここで以前、俺の為に用意してくれたチェアに腰を下ろして早速(さっそく)くつろぐ。
隆明さんを知る人はほとんどが彼を暴君と呼ぶが、家族ぐるみで会うことの多い俺からしたらまた別の一面の方にも馴染みがあったりする。
「今、お茶を用意するからその間に手を洗っておいで」
「分かった」
2人の荷物を部屋に運んでからエプロンを身に付けてキッチンに向かうその姿は、男性には無い筈(はず)の母性を感じさせる。
トモ的に言えば、オカンだ。