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『聖なる癒しの御手よ 母なる大地の息吹よ 願わくば我が前に横たわりしこの者を その大いなる慈悲にて救いたまえ 【リザレクション(復活)】!』
リュウがマスターへと手を翳し、唱えれば、パァッと光がマスターを包み徐々に傷を癒していった。
「凄い・・・・」
近くでそれを見ていたレビィが、初めて見たリュウの癒しの魔法を見て、驚きに目を見開いた。
『次、ガジルかな。』
ガジルの怪我の具合を見て、彼も治癒はあまり効果がないと思い、マスター同様、復活を唱えようとした時だった。
ーーーーーゴゴゴゴッ!!
と島全体が揺れ、それと同時に、ドサドサッと倒れる音がしてリュウは慌てて皆を見た。
『皆っ!!?』
そこには倒れているリサーナやレビィ、リリーの姿。
そして敵と対峙していたはずのラクサスやフリード、ビックスローは敵の攻撃に三人とも吹っ飛び、なかなか立ち上がれずにいた。
「くそっ・・・どうなってやがるっ!?」
ラクサスがググッと力を込め、立ち上がろうとするも、立ち上がれず、そんな彼の前に敵からの攻撃を受け、ズザァァっと吹っ飛ぶ。
「くっ・・・・・」
「ラクサスっ!!!」
「くそっ・・・身体がっ・・力が抜けて・・・」
フリードがラクサスの名を叫び、ビックスローがなんとか立ち上がろうと力を入れるが、その場に倒れ込んでしまう。
「あははははっ!アズマか、天狼樹が倒されたんだ!これでもう魔力が奪われて行くお前達に万に一つ!勝ち目はなくなったわけだ!」
眼鏡の男が高笑いしながら状況を説明してくれる。
『天狼樹・・・・?なるほど・・だから・・・』
さっきまで聞こえてきた声が、急に聞こえなくなった。
『島の、妖精の尻尾の聖地である加護の力を纏いし樹が倒されて魔力が奪われてるのね・・・・』
妖精の尻尾の印を宿した者達だけに加護されるはずの特権が、今は逆に敵に利用され、奪われてしまっている。
「・・・誰から殺してほしい?」
そう言いながら倒れているラクサスへと近寄って行く男。
「やはり貴様からがいいか。生かして置くには危険すぎる。」
スッとラクサスに具現のアークとやらで作り出した剣先を向ける。
「・・・・・・」
倒れ込むこそしていないものの、立ち上がる事は出来ないラクサスだったが、ギロッと睨みつけるその目に、敵はイラついている様だった。
「その目・・・気に入らないね。まずその目から潰してやろうか?」
剣をラクサスの目を目がけて振り下ろす男。
「いやぁぁぁぁ!!!!」
「ラクサスーーーー!!」
「やめてーーーーー!」
レビィが泣き叫び、フリードが彼の名を呼び、リサーナが目をギュッと閉じた。
ーーーーーガキンッ!!!
「なっ!!!?」
聞こえてきたのは金属音に、敵の男の驚く声。
『悪いけど、動ける奴もいるのよ?』
ニコッと笑い、驚いている男に回し蹴りを喰らわせれば、男は後ろへと吹っ飛んだ。
「リュウっ!!!」
リサーナとレビィがパァッと顔を明るくさせてリュウの名を呼んだ。
「お前・・・・」
ラクサスも何処か驚いたように、自分を庇うように剣を手にして立っているリュウの背を見た。
「なぜっ・・・立っていられる!?」
男が驚きの表情のままリュウへと怒鳴ればリュウはニコッと笑った。
『さて?なんででしょう?』
「・・・まぁいい。一人動けた位でこの勝負は俺達の勝ちなんだからな・・・。」
『大した自信ね?だったら・・・正々堂々私と勝負して勝てるというのよね?』
「当たり前だろ?オレが貴様のような小娘一人に負けるとでも?」
『だったら勝負してみる?』
「いいだろう・・・。」
挑発的に笑むリュウに、男も笑って言った。
フリードとビックスロー、ラクサスは力が入らない身体を何とか引きずってレビィ達の所まで下がった。
「リュウが・・挑発してる・・・?」
レビィが驚き、言えばラクサスは何かを考え込んだ。
「リュウって強いの?」
リサーナの言葉にレビィは分からないと答えた。
「でも・・・少なくとも自分から勝負を吹っかけるタイプではないわ・・・。」
「違うな・・・・。」
「え?」
レビィの言葉にラクサスが答えた。
「あいつは勝負を吹っかける為に挑発したんじゃねェ・・・。俺達を、動けない奴らを人質に取られない様、敢えて挑発してサシの勝負にもちこんだんだ。」
「・・・・そういやーグレイが言ってたな。あいつ口八丁だと・・・」
ラクサスの言葉にビックスローが思い出したように言った。
「・・・・相当頭が切れるようだな。少しの時間で最善の方法を選ぶとは・・・」
「あぁ・・・、これで怪我人と動けない俺達に気兼ねすることなく敵に集中できる・・・」
ラクサスは自分が足手纏いになりえるこの状況を、ギリッと拳を握りしめて悔しそうな表情を浮かべた。
「けど・・・どうしてリュウは・・・・」
「そうか・・・リュウは妖精の尻尾だけど、魔力が根本的に違う・・・」
リサーナの言葉にレビィがハッと気が付き言った。
「だが、万全と言うわけでもないだろうな・・・・」
「あー?」
フリードの言葉にビックスローが聞き返せば彼は言った。
「考えても見ろ、リュウは、こちらの魔法も使うのだぞ?それなりに身体に影響はある。こちらの魔法、アイスメイクは使えん。」
「そうなると、タイムラグがどうしても発生しちまう、詠唱の魔法しか使えねェってことだ・・・。」
フリードの言葉にラクサスが続けて言えば、なるほど・・・っと納得した皆は心配そうにリュウを見た。
『(魔法詠唱は命取りになるわね・・だったら・・・)永久と無限をたゆたいし すべての心の源よ 我に従い力となれ 【アストラル・ヴァイン(魔皇霊斬)】!』
詠唱を唱えて持っていた剣へと指をスッと翳した。
するとリュウの剣の刃の部分に赤い光を帯びた。
「剣に魔力を込めた?初めて見る魔法だ。それも失われた魔法の一種かい?」
『さぁ?どうかしら?』
「まぁいい、君の魔法とオレの魔法、どちらが上か決めようじゃないか。具現のアーク!迅雷のベルクーサス!」
男が言えばゴゴッと音を立てて馬鹿でかいモンスターが出てきた。
『はっ?』
その大きさに驚くリュウ。
「ありゃぁさっきのっ・・・」
ビックスローが自身の魔法、セイズ魔法で粉砕したモンスターだった。
「あんなデカい奴相手に剣じゃっ・・・」
リサーナが言うも、リュウは驚いた表情から一変し、呆れた様にため息を吐いた。
「ははははっ!小娘程度がこの守護神を倒せるわけがないっ!あのセイズ魔法を使うあいつが居なきゃ、このベルクーサスは無敵だっ!」
『・・・・・・・・・』
剣を構えないまま、スッとリュウはその馬鹿でかいモンスターの横を通り過ぎた。
「・・・え?」
高笑いしていた男が、一瞬何が起こったか分からない状況に目を見開いた。
崩れ落ちる大きなモンスターと、崩れ落ちた向こう側に、トントンっと剣で自身の肩を叩いて呆れた様にため息を吐いているリュウの姿があった。
ーーーードシャッと崩れ落ちたモンスターは跡形もなく消え去った。
「え?何が起こったの・・・?」
レビィが驚きに目を見開いていて、リサーナもブンブンと首を振った。
「わっ・・わかんない・・・」
「・・・通り過ぎざまに13回、太刀を入れた。」
ラクサスの言葉に、全員が驚きに声を上げた。
「13回!!?」
「太刀ってっ・・・斬ったって事っ!!?」
「・・・・何がS級に興味ありませんだよ・・・ありゃエルザと同等・・・下手したらそれ以上だぞ・・・」
ラクサスの言葉に全員が冷や汗を垂らした。
「リュウの・・本気って・・・」
「ちょっと・・・想像したくない・・かな・・・?」
レビィとリサーナの言葉に、いつの間にか目を覚ましていたエバとエルフマン。
「俺達が・・・・」
「あんなに苦労したモンスターを・・あっさりと・・・;」
「バカなっ・・・こんな小娘がっ・・・・オレの魔法をいとも簡単にっ・・・」
ワナワナと信じられないと言う表情で震える男。
『そうやって見くびってる時点であんたに勝ち目はないんだよ。悪いけど、約束したの。悪魔の心臓を・・・あんた達のマスターを必ず止めるってね。』
剣をスッと男に向けて言い放つリュウに男は一瞬たじろぎ、後ずさったが、ニッと笑う。
「守護聖獣!疾風のベルファースト!」
その言葉と共に先ほどとはちょっと姿形が違う大きなモンスターの姿。
『悪いけど、デカいだけじゃ何体出そうが一緒よ。』
スッと剣を構えてその大きなモンスターへと向かい飛び上がった。その姿を見て男は予想通りだと笑った。
「ベルファースト強化!」
ーーーーガキンッ!!!
男の言葉とほぼ同時に剣を振り下ろせば、その剣先は先ほどとは違いモンスターを切り裂くことはなく、止められた。
『なっ!?(さっきより堅いっ!?)』
「オレの魔法は想像力、ベルファーストに、全てを退ける黄金の盾と同じ効果を持つ能力をプラスしたんだ!」
『・・・・だったら、それごと切り裂けばいいっ!!』
もう一度剣を振りかぶったリュウ。
「更に!全てを切り裂く漆黒の剣!!」
モンスターからの攻撃を避けた瞬間、男の腕が伸び、リュウへと物凄い速さで向かう。
ーーーガキンッ!!
『くっ・・・』
その攻撃もなんとか受け止めるも、後ろに素早く移動したモンスターが攻撃を仕掛けた。
「疾風の守護聖獣は早さが持ち味なんだ。キミと同等、いや・・キミより早いだろう?」
『っ・・・・』
男の攻撃を剣で受け止めながら目で何とか追うも、早すぎて攻撃を捌いて避ける事も出来そうになかった。
ーーーードガンッ!!!
『かっ・・・・』
モンスターからの攻撃を受けたと同時に男からの漆黒の剣とやらで斬りつけられ、後ろへと吹っ飛ぶリュウ。
大きな木に身体を打ち付けドサッと倒れ込んだ。
「リュウっ!!!」
リサーナとレビィが涙を浮かべ名を呼び、ラクサス達は身体が動かない事に、ギリッと歯を食いしばった。
『うっ・・・・』
強く身体を打ち付けた事で目が霞み、手放してしまった剣へと必死に手を伸ばすリュウ。
「無茶苦茶よっ・・・あんな魔法っ・・・想像力次第で強化も素早さも攻撃力もあがるなんてっ・・・」
口元を抑えて、ガタガタと震え、倒れ込んでいるリュウを見つめるリサーナの目にはポロポロと止まることなく涙が溢れた。
ーーーガっ!!
『くっ・・・・うっ・・・』
剣に手を伸ばしていた手の甲を踏みつけられ、そのままグリグリと踏みにじられた。
「さっきの言葉、そのまま返してやろうか?たった一度、オレの魔法を破ったくらいで見くびってる奴に勝ち目はねぇよっ!」
ーーーザンッ!!と漆黒の剣とやらをリュウの肩へと突き刺した。
『あぁぁぁっ!!!』
「いやっーーーーー!!!」
「やめろっ!!!」
叫ぶレビィに、ラクサスの声。その声を聞いて男は益々ニヤニヤと笑った。
「正々堂々勝負した結果がこれだ。小娘程度にオレがやられるわけないだろ?」
『・・・・興味・・・あるねぇ・・・』
「あー?」
肩に剣を突き刺したままのリュウを見下す様に睨みつける男。
それに対してニッと挑発的に笑むリュウ。
『あんた・・・言ったわね?全てを切り裂く漆黒の剣だと・・・』
「この剣に斬れねェ剣はねぇ!」
『奇遇ね、私もその魔法持ってるわよ?』
「なに・・・・?」
ピクッと反応する男に、リュウは更に挑発するように笑む。
『全てを切り裂く暗黒の刃・・・今の私の・・・最強の魔法・・・・』
「・・・・・・」
『興味ない?・・・どちらが、最強の剣か・・・』
「リュウ・・・・?」
見下す様に睨み、無言の男に対し、挑発的に笑むリュウ。
そんな様子をレビィは震える身体をなんとか抑えて、彼女の名を呼んだ。
・・・・・・・・・・・
(さぁ・・・乗ってこいっ・・・)