紅色の時

□序
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 淑やかな着物を纏った紅裙が必ずしも凄絶な剣豪でないと主は言いきれるか。
 俺の答えは否だ。しかし何も存じない主の答えは

   紅裙心中に秘密有り

 これが一般的で正しいのだろうな。



     序



 時は文久一年─────長らく京で力を集結させ身を隠してきた─────妖怪たるものがその姿を現した時期(とき)。
 古くからこの地に潜み人間を恐れてきたそれは、同胞を見つけてはそこに留まらせ、いつしか国を治め人間を廃することを考えるようになっていた。それが募り強大な勢力を持つようになったこの年、遂に自らの存在を明らかにしたのであった。
 宣戦布告の三日後遂に京は戦場と化した。─────京都国奪戦争である。
 異常を聞き付け各地から京へ武士が集った。しかしその数は妖怪勢のおよそ半分、数的には勝敗は見えているように思えた。
 だがこの戦いは一年で膠着状態を迎え、三年目にして終戦さらに和睦してしまう。もちろん各地から集った兵(つわもの)の活躍に他ならない。けれどもこの戦争の英雄は後にただ四人に絞られた─────。
 四人は互いの顔すら知らない。
 ただ共通して言えるのは奴等を目撃した兵士は、敵のみならず仲間でさえその一騎当千振りに恐れ息をのみ、戦うことも忘れて彼らの刀の軌跡に目を奪われていたらしい。
 炎を反射させ暗闇で刀が輝く様子はまるで彼らそのものが光のように思わせ、彼らを取り巻く血飛沫はまるで真赤な桜吹雪。
 彼らは浪士の間で光、赤珠などと囁かれ─────。
 現在慶応二年─────彼らはこう呼ばれている。




  紅色の時代(くれないのじだい)
 

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