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□素直になれない君が好き
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その日はまだ五月だというのに太陽がじりじりと照りつける暑い日だった。
つい数ヶ月前までは寒さに身を寄せ合っていたというのに、気付けば桜の花びらももうとっくに散ってしまっていた。
もうあとひと月もすれば梅雨が来て、あっという間に夏が来るのだろう。
そんなことを思いながら、銀時は冷蔵庫の中からいちご牛乳の紙パックを取り出した。
銀時は寝起きの体に冷たいいちご牛乳を流し込む。
紙パックのまま飲むものだから、口の端からピンク色をした甘い匂いの液体がすーっと筋を作って零れた。

「零れてるよ。ここから」
「あー」
「いつもコップ使って飲んでって言ってるのに」
「わりーわりー」

銀時にこう声をかけたのは銀時の彼女の志織だ。
志織は食器棚の戸を開けコップを取り出すと、それを銀時へ渡した。

「おーさんきゅ、志織チャン」

台所を出て居間にあるソファにどかりと腰掛ける。
コップに半分ほど注いだいちご牛乳をぐいっと飲み干し、ふうと一息ついた。
皿洗いを終えた志織も、居間へやってきて銀時が座る向かいのソファへ腰掛けた。

「なんか今日暑くね?」
「今日の気温三十度近いらしいよ。まだ五月なのにね」
「まじでか。なんもする気になんねえな」
「いつものことでしょ?」

雑誌に目を通しながら志織は銀時の言葉に相槌をうつ。
だが、一言二言交わすと会話は途切れ、部屋の中はしんとした空気に包まれた。
それでも居心地の悪くないこの空間は長い時間を共に過ごしてきた証といえるだろう。
ふと、銀時が立ち上がり志織の座るソファへと移動した。
そして後ろから志織の見ている雑誌を盗み見る。
そして銀時は志織の肩に自分の顎を乗せた。

「…重い」
「おう」
「…暑い」
「おう」

志織の言葉を聞いているのかいないのか、銀時はそのまま志織の体に腕を回しぎゅっと抱き締めた。
志織はもう一度暑いと呟くが嫌がる様子はなく、自らの体を銀時へ預けるように寄りかかった。

「お前は本当素直じゃないね」
「そんなことありません」

志織が振り向いてそう言うと、銀時は志織の隙をついて、自分の唇を志織のそれに軽く押し付ける。
突然の行為に志織は、顔を真っ赤にして狼狽えていた。

「バーカ」
「素直じゃないねぇ本当に」

志織の真っ赤に染まった顔を見て、銀時は静かに笑った。


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