うたぷり

□運命の春
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講堂では新入生は全員がクラスごとに整列していた。並ぶ順番は決まっていないらしく、紅は適当に人の隙間を縫って端へ移動し、席に着くとぼうっと入学式が始まるのを待つ。あたりを見回したが知り合いの姿はない。紅も音楽界では有名な鳴宮家の子供であるため、誰かしら知り合いがいるのではないかと思ったのだが、ここは音楽学校ではなく芸能専門学校だ。知っている者などそうはいない。それに、紅にとっても自分を知らない者たちの中にいるのはどこか落ち着いた。知り合いがいないのはみんな同じのようで、そこかしこがそわそわとしたどこかくすぐったい空気に包まれている。
そういえば、この学校は様々な年齢層の男女がいると聞いていたが、いざ入学してみれば圧倒的男子率だった。これはペアになっても男女ペアができる可能性は低そうだ。
入学式が始まり、学園長先生のユーモアな祝辞を終えるとすぐに講堂の後方のドアが勢いよく開き、女子生徒が駆け込んでくる。が、彼女は足を滑らせてその場に尻餅をついた。あたりがクスクスという小さな笑い声に包まれる。顔を真っ赤にした彼女は慌てて紅の隣の空いている席についた。なんとなく気になって、紅は彼女に小さく声を掛けた。

「大丈夫?盛大に転んでたけど」
「あっはい……すみません」

あまりに小さい声でほとんど彼女の声が聞こえてくることはなかったが、口の動きを見てそう言っていることは分かった。
恥ずかしそうに伏せる顔、サラサラの絹のような髪、小柄な容姿。可愛らしいその姿に見とれていた。
しかし、何故謝ったのか……。彼女の不思議な行動に、ますます興味が湧いてきて、そのまま構わずに話しかけた。

「俺、鳴宮紅。作曲家志望。君は?アイドル志望?」
「あ、えっと、七海春歌です……あ、アイドル志望なんてそんなおこがましい!私も作曲家志望です!」
「そうなんだ。もったいないな、せっかく美人さんなのに」
「ええ……!?」

顔をまた一段と赤くしてあわあわと返答する春歌がますます可愛くて、紅はクスリと笑いかけた。いともの紅とは少し違った、いたずら好きっぽい小悪魔な微笑みだった。
対する春歌も、偶然隣に座った美形少年が気さくに話しかけてきたことに動揺しっぱなしで、入学式は怒涛のスタートとなった。
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