うたぷり
□淡い希望
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信じられないことが起こった。
試験から5日後。進路を変えるべきか否か、紅は悩んで結論が出なかった。鬱々とした気持ちで部屋に閉じこもっていた紅の部屋に、仕事前の準備をしていた父親が飛び込んできた。廊下を駆ける音、そしてその直後にバンッと大きな音を立てて父は紅を見つめた。まだワイシャツはボタンが留まりきっていないし、寝癖だってついたままだ。
「紅、……たぞ」
「なに……?」
父の声が小さすぎて、紅は聞き取ることができずに一度聞き直した。すると父は、今度は紅の肩をガシッと掴んで感極まった声でほとんど叫ぶように言った。
「受かってたぞ……合格!合格通知が届いたんだ!」
悪い冗談だと思った。入試から帰ってすぐ、両親には面接試験での試験官たちの反応を伝えた。たぶんあの反応は、障害を理由に落とさざるを得ない、そんな反応だったのだと。
しかし、父の後ろから顔を出した母の手には早乙女学園の封筒が握られていた。母の顔は涙でくしゃくしゃになっていて、封筒を持つ手は震えていた。同じく震える手で、紅は父から封筒を受け取る。封筒は少しばかり厚かった。中にはいろいろな種類の書類が入っているようだ。その中から、ペラペラの紙を一枚取り出すと、それこそが合格通知だった。
「鳴宮 紅殿
あなたを早乙女学園入学に許可することをここに証明します。」
紛れもなくそれは自分の名前だった。まだ信じられなくて両親の顔をもう一度見ると、当の本人の香よりも興奮しているようで、頬は紅潮し何よりとても嬉しそうに微笑んでいた。
「おめでとう紅。よく頑張ったな」
「立派な作曲家になるのよ」
奇跡とは、本当に起こるものだったのだ。
こうして、紅は晴れて早乙女学園
に入学を果たした。