うたぷり

□世界から音が消えた日
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紅は産まれた時から、音楽に囲まれた生活をしてきた。いや、正確に言えば、産まれる前の母親のお腹の中でも、既に音楽に囲まれた生活をしていたと言える。
物心つく前から、ピアノやヴァイオリンに触れて育った。すぐに大人顔負けの腕前に成長し、将来は父や母と並ぶか、それ以上の音楽家になるだろうと囁かれた。紅自信それ自体嫌ではなく、むしろそうなりたいと思っていたからこの上なく嬉しかった。


モーツァルトの再来だと、そう噂された。


しかし、事件が起こったのは紅が小学2年の大雪の日のことだった。
何の前触れもなく原因不明の病に倒れ、40度近い高熱で病院へ緊急搬送された。
朦朧とする意識の中、付きっきりで隣にいる母の涙声が聞こえたのを朧気に覚えている。
私が代わってあげられたらいいのに、ごめんなさい、何もできなくてごめんなさい。
そう繰り返す母の声が。それが最後だった。
10日間うなされ続け、入院先の病院でようやく回復した紅は、すぐに自分の体の異変に気づいた。真っ白な病室に、安堵した両親の顔、握られた手の温かさ、鼻をくすぐる薬品のにおい。
ただ、わからないものが1つ。音楽家を目指す上で何よりも大切なもの。



突きつけられた現実は、あまりにも残酷なものだった。




その日から、紅の世界から音が消えた


      
 

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