MaiN

□二日目:夜
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テューの笑みと沈黙が怖い。抜け出す方法を必死に考える。

首筋、右手、腹部を押さえられている。左手一本でテューに勝てる訳がない。《哭き叫くロゥリィ》は手の届く範囲にない。

焦りで混乱する俺の視界に白いものが映った。俺とテューの視線が同時にそちらを向く。

「ルルの嬢ちゃんにテューの旦那……お楽しみのところ悪いが、そろそろ晩飯だよ。コッツの旦那が来る前に、嬢ちゃんから退いた方が身の為じゃないのかい」

白い塊の正体は、雷獣のタカシナだった。煙管の煙と一緒にため息を吐き出したタカシナは、それだけ告げると屋上から去った。

屋上には再び俺とテューが取り残された。陽は既に沈み、空は紫色に染まっている。手首の痛みは随分引いてきたが、蹴られた鳩尾は呼吸の度にまだ痛む。

形容しがたい数秒の静寂の後、ようやくテューは立ち上がった。

「今回は邪魔が入ってしまいましたし、これくらいにしておきましょう」

仰向けに倒れる俺に、意味深な言葉と手が差し出された。

俺は素直にテューの手を掴んだ。言葉の方は良くわからないので無視。テューもさして気にしていないようだった。

沙漠の國生まれだというテューの蜂蜜色の肌は、中年とは思えないほどに滑らかだった。

手を借りて立ち上がった俺は、屋上の隅に飛ばされていた《哭き叫くロゥリィ》を拾い上げ、鞘へと戻した。

「さて、行きましょうか」

テューの言葉に俺は頷くと、一階へ向かった。
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