MaiN
□一日目:深夜
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ルルは宵闇の小路を歩いていた。
短い黒髪に黒目、黒を基調とした服に包まれた小柄な身体。彼女を構成する全てが、夜と調和している。
「ったく、つまんねぇな」
呟く唇は不機嫌そうに曲がっている。夜中に仕事をしなければいけないこと、仕事の内容が気に入らないこと、そして何より相棒が仕事をしないことに、ルルは苛立っていた。
しばらくそのまま不機嫌に歩いていたルルは、おもむろに歩みを止めた。視線の先には一人の男性。今回の仕事の対象だった。
ゆっくりと背後から近づき、驚かさないように出来るだけ優しく声をかける。
「あの、すいません。【古書館(ライブラリ)】から来たんですが」
ルルの言葉に、男は立ち止まって振り向いた。
「はい、何の御用でしょうか?」
「カスペルさん、で間違いないですね?貴方の【鑑器(グロサリー)】、《江戸雀キビタキ》の免許更新がされていないのですが」
ルルが掲げる写真の中では、目の前にいる男と同じ顔の男性が、黒いスーツを着て笑っていた。
「あぁ、もうそんな時期でしたか。失礼しました。明日にでも役所に行きますね」
「自分の遺影を見ても驚かないってたいした根性してるな、カスペルさんよぉ」