小説(神喰い)

□孤独にさよなら
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こんな俺に好きだと言ってくる物好きがいた。
そんな馬鹿はこの世に存在していないと思っていたんだが、俺の思い違いだったようだ。

「ソーマ!! お……俺、ソーマのこと、好き、みたいなんだ……けど」

「あ?」

一体何を言っているんだコイツは。馬鹿なのか?
ああ、馬鹿なのか。

……とまあ、そんな会話が行われたのが小一時間前。
アイツには……コウタには悪いが、俺はそれを言われた後、速攻で逃げた。
多分、そんなことを言わなければならない程錯乱することが何かあったのだろう、俺の預かり知らぬところで。
つまりそれは、関わったら面倒臭い、ということだ。
だから俺は逃げてきたのだ。面倒事は嫌いだからな。

「ソーマ! 待ってってば!!」

だというのに、アイツは俺を追いかけてきた。
なんでだ、空気を読めよ。
ああ、そういえばコイツは馬鹿だったな……馬鹿には空気なんてわからないのだろう。

「なんなんだ。俺に近寄るな」

「いや、なんで逃げるんだよ!告白しただけじゃん!」

何をしれっと言っているのだろう、コイツは。

「俺は、別に何かの罰ゲームとか、そういうのでお前に告白してるんじゃない!」

「は? じゃあなんで……」

「俺は本気でお前が好きなんだよ、ソーマ!」

ならば尚更駄目だろう。
だって俺とお前は、お互い男なのだから。

「……お前のことが気になりだしたのは、シオとリーダーと、お前でミッションに行った時だった」

何故かいきなり語りだした。
コウタ曰く、俺を好きになった理由、らしい。

「あの時、初めて……俺はお前のことを知った。名前とか、そういうんじゃなくて、お前が、お前を研究することで、神機が生まれたんだって、初めて知ったんだ。なんていうか……今まで、お前は俺達と同じ……っていうか、うん、まあそんな感じだと思っていたんだ」

拙いながらに話し出されるその言葉に、耳を傾ける。
まあ、確かにその時点でコウタは知らなくて良い事実だったし、元より余り知られたくないことでもあった。
そりゃそうだろう。俺は人間で、アラガミで……。

「でも、でもさ、その時――俺が守らなきゃ――って、思ったんだ」

「……? 誰を……」

「お前を。家族と同様に、お前を」

――は?

「お前が俺より強いことも知ってる。お前には守るより守られてる方が多いことも知ってる。けど、でも――それでも、俺はソーマのことを守りたいんだよ。好きだから」

「……」

嬉しいなんて思わない。迷惑なだけだ。
そんなお節介はいらない。
なんで俺にそんなことを言うんだ。やめてくれ。
そういう優しい言葉は、これからお前が家族というものを作る時にこそ、取っておくべきだろう?

「……そんなの、迷惑なだけだ」

目を伏せて、フードを目深に被る。
表情は、見えないように。
コウタに、こんな無様な表情だけは、見られないように。

身長差ってのは、時に裏目に出る。この場合、俺の方が背が高かった。
つまり、どんなに目を伏せても、下から見られれば、当然、表情なんて丸見えなわけで――。

「そんな泣きそうな顔すんなよ――ソーマ」

バレてしまった。

こんな、今にも涙が溢れそうな、醜い顔。

「泣くなら、ほら、俺の肩とか貸してやるよ。だから、俺の気持ちに応えてくれないかな。嫌いなら嫌いで構わない。でもさ、教えて欲しいんだ。ソーマの本当の気持ちをさ」

そう言ってコウタは俺を抱きしめる。
普段なら振りほどいて、突き放して、それに対してコウタが文句を言って――それで終わり。日常。

それをしなかったのは、別に、嬉しいとか、泣きたくなったから、とかじゃない。

ただ――単純に。

応えてみたくなったのだ。
この馬鹿な男に。

「……俺は、お前のことを好きじゃない」

「だよなあ」

「けど」

「ん?」

コウタの背中にそっと手を回して。

「まあ……、試してみるくらいなら」

「素直じゃねぇなあ」

忘れていたのは、そこが部屋の前の通路だってこと。
そこを偶然通って不運にも俺達を目撃したリンドウに必要以上にはやし立てられ、キレた俺を必死に抑えるコウタの姿があったことは、また別の話だ。

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