ナルト
□62
1ページ/1ページ
「煮物は今日だって決めてたの。冬至でしょ」
本当はゲンマにきてほしくてカボチャ料理をを出したなんて、最重要機密情報。
そしてかぼちゃなら何でも好きなのだと思っていたことも。
夜の一品メニューたちの中から、ゲンマは先ずかぼちゃの煮物を注文して、頬張っている。
「毎日、煮物でもいーよ…ゆき、元気にしてたか」
「うん、風邪も引かず、元気です」
「まあ馬鹿は風邪ひかないっていうよな」
あ、また馬鹿って言った。あの夜も言われたの覚えてるんだからね。
ゲンマもピンピンしてるって、アオバさんから聞いていたと意地悪に返した。
すると、気まずそうに千本がチラリと揺れた。
「…アイツとはどーなんだよ」
「アイツ?」
「言わせるなよ、わかるだろ、」
「…言わせないでよ」
最近来ていないし、避けられている気がするなんて、どうしてゲンマに言えよう。
打ち明けたとして、何故かなんて問われたら、悲しくってそんなの私が聞きたい!
…だなんて喧嘩になってしまいそうだもの。
「あ、そ…あ、熱燗頼むわ」
「はい、そう思ってたの。あとこれも」
「湯豆腐。いいな」
「柚子胡椒でどうぞ。柚子を農家さんがたくさんおまけしてくれたの」
見て、とレジの棚を指差す。そこには竹ざるに柚子をてんこ盛り。絞っても、皮をすりおろしてもまだまだ余るぐらいあったから、お会計の後にお客さんに欲しい分だけのお土産にした。
柚子湯にとゲンマにも渡そうとしたら、やんわりと断られた。
「俺いつもシャワーだし。これから帰って沸かすのも面倒、」
「そっか。それじゃあ、うちで入って行く?いい匂いだよ、昨日もフライングでお湯に浮かべたの」
「お前なあ、家で風呂入ってけってそういうことだぞ?いや、そーいう事なのか?客、俺だけだもんな?」
「あ!そうだ、銭湯も柚子湯だって!」
「ったく…あ、それいいな。」
ゲンマは、そうしようと言って徳利を傾けた。
もう空になっていて、ぽた、と一滴だけ落ちる。
「いや、やっぱやめる」
「やめるの」
「ゆき、温泉行きたかったんだろ」
「そう、美肌の湯。シズネさん絶賛。だけど場所が分かんないの、知ってる?」
「じゃあ、日曜に行くか」
「もう、男女で温泉行くって、そういうことなのよ」
「ああ、デートしようぜ」
「でっ」
はは、とゲンマがいたずらに笑う。
料理の評判もいいみたいだと、私の手にお代を握らせる。
「んじゃ、考えとけよ」
「もうごはんいいの」
「ゆきの顔見れたんで充分」
再来週な、と付け加えて、
ゲンマは柚子を片手に店を出て行った。
「どうするのよ、その柚子…」
デートなんていうから、行けないよ。