ナルト
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「お客さんまだかなあ…」
ぼんやりと客を待つ。
ストーブの熱で鼻の辺りがぼうっと熱い。
しゅんしゅんと、やかんが湯気を立てる。
寒さからか、お客さんの朝の往来が少し遅い。
それと相反して、夜のお客さんの入りは早い。
そして戸があくたびに、待ってたよとか元気だったかとか、嬉しい言葉をもらう。
昨日は再開してから久しぶりに、火影様とシズネさんが来てくださった。賭けに勝った、って気持ちよさそうに酔っ払っていたなあ…
だけど1番の常連、ゲンマはこない。
まだ蘇る口元の感触、この間の表情。ヤマトさんとも未定の約束。ゲンマの来店を、堂々と待ち望めない理由はたくさんあった。
ああ、なんだかもやもやしちゃう。
「外の空気、吸おうかな…」
店の表口の戸を開けて顔を出すと、額の肌がキュッと引き締まった。
「ふう…みなさーん、寒ぶりが待っていますよ…」
“ニャア”
「あら、ふふ、いらっしゃい。ちょっと待っててね」
台所へいりこを取りに行き、それを足元へ置いてやる。
いりこを食べる本日のお客さん1号に、ぽつりぽつり話かけた。
「最後に会ってからひと月すぎたら心配しようと思うの」
“はぐ、はぐっ”
「心配だから顔出してって、それくらいなら言っても大丈夫だよね」
“ニャー”
猫は私の足元をうろうろ歩く。
おかわりが欲しいのかな、
「もういりこはないのよ。あ、鰤のアラ焼いちゃおうか」
でもそのかわりにね、
うちの招き猫になってくれる?