ナルト
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「頭の中はアイツのことばっかりだな」
俺の苛立ちは最高潮だった。
小突いてやりたい、この浮かれポンチ女。
ゆきは馬鹿じゃない。話はよくわかっているはず。
身の危険のリスクがあっても作りたいという。それも、1人の奴だけに。
「何よう、その言い方。心配してくれてるのは分かるけど私もいい歳なのよ。信用できる相手くらいちゃんと選べるよ」
「...あのなぁ、俺がアレコレ言うのは心配してるだけが理由じゃねえよ」
「どういうこと」
「いつまでも兄ちゃん役やるつもりはないってこと」
「小姑?」
「阿呆」
むすっとしたゆきの手を引く。
俺は立ち上がり、右手をゆきの腰に回した。
千本がキン、と音を立ててカウンターへ落ちる。
「何、え、ストップ」
「止めねえ」
「千本が刺さりそう」
「咥えてねえ」
「唇がくっつきそう」
「くっつけようとしてんだ」
左手で髪を漉いたその時、外からいつものガヤガヤ声が聞こえてきた。
“ボク親子丼超大盛りにしよーっと”
“ちょっと、ナルト、暖簾かかってないわよ”
“だから昼の営業終わってるっていったろ。めんどくせェけどかえろうぜ”
“えェー”
そうそう、もう店閉めてんだから帰りな。
外の会話を気にするのもそこそこに、自身の身体を傾け、左手でゆきの困惑した顔を寄せる。
今にもそうなりそうになった時、ガラ、と音がして戸が開いた。
「ゆきねーちゃーん!親子丼大盛り6人まっ....え」
「...今取り込み中、悪いな」
「おじゃましました」
直ぐに戸は閉められた。
ゆきは真っ赤な顔で、呆然としている。まあ、そうなるか。俺も想定外だった。
「あの、ゲンマ、離して...」
「ああ、そうだな...」
腰の手を緩めれば、ゆきはホッと息づく。
俺は、頭に添えた手を頬に滑らせる。
その口のすぐ横へ、唇をあてがった。
さらに顔を赤くしたゆきに一言残し、店を後にする。
「さすがに分かったろ?お前みたいな鈍感でも」
兄貴でも小姑でもないってな。