ナルト

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「ふふ、大丈夫でした」

「何がです?」

「ううん、こっちのはなし。」



“そんな事しないで”なんて言うから、重いと思われたかと思っちゃった。

少し早足になった彼。斜め後ろから見た耳が赤くて、怒ったのか照れたのかと、私も早足で追いつく。横目で見てひと安心。

少ししてヤマトさんは困ったように微笑んだ。



「すみません、その、照れてしまって」

「いえ、私もデートなんて言って浮かれちゃって」

「はは、これはまいったな...」



公園に着き、ベンチに座ると2人してふうと一息。

ああ、私、ずうっとヤマトさんしか見てなかったのかもしれない。
景色を見やれば、近景の木でさえ焦点が合うのに時間がかかる、そうも感じるぐらい。

色づいた木々がざわめき、落ち葉が舞う。綺麗だなあとヤマトさんがつぶやいた。



「それじゃ、読書の秋といきますか...ってもう殆ど冬だけど」

「今日は特別、天気が良くて良かったですね」

「ああ、暖かくていい日だ」



それからしばらく本を読んだ。



3分の1ほど読んだところで、少し目を休めようと木が揺れるのを眺める。
沈黙が心地よくて、ずっとこのまま隣に座ってるだけでもでもいいなあ、なんて。

その静けさを割くように、ぎゅう、と音が聞こえてきた。それも、私のお腹から。



「...今、虫が鳴いたかな」

「あ、あは。秋は虫の音が綺麗ですよね...私、読書の秋より食欲のほうだったかも」

「僕もだ。昼には少し早いけど...いただいてもいいかい、お弁当」

「もちろん」


今日はたくさんおむすびを用意した。
梅、おかか、鮭と定番ばかりだけど、やっぱり行き着くのはここなんだよね。
んんー、冷めても美味しいなあ。



「午後からお仕事だって言っていたから、たくさん作ったの。足りそうですか?」

「ああ、充分だよ、美味いです。それに身体の中から元気がみなぎるような」

「ふふ、大袈裟ですよ」

「本当だよ。お陰で午後の任務も頑張れそうだ」




そうして食べて、景色を眺めて、本を読んだ。



「わ、もう行かないとマズい時間だ」

「そっか。今日もとっても楽しかったです、ありがとう、ヤマトさん」

「あぁそれはよかったです。僕なんて本に熱中しすぎて話もロクに振らなくって、退屈だったらどうしようかと」

「ふふ、そんな...今日読んだ小説でね、ある2人が。それぞれはよく喋るんだけど...」



2人の描写になると会話が途端に少なくなった。でも、柔らかくて優しい。一緒にいて楽しいだとか幸せだとかっていうのは、話が盛り上がることだけではないのだと。



「...だからね、そういうことです」



ヤマトさんはまた困ったように笑った。

そして、いつかの夜のように、彼の右手が私の顔の方に差し出される。思わず目を瞑る。

また頬に何か付いてたかな、ごはんつぶかな、海苔はもっと嫌だなあ...

恐る恐る目を開くと、目の前に紅葉した桂の葉。髪についていた、と。

私はそれをヤマトさんの手から取り、読みかけの自分の本に挟む。



「しおりに」

「ああ。いいね」

「また頬にご飯粒でもつけてたのかと思っちゃった。それじゃあ、ヤマトさん、急がなきゃ」

「はは、懐かしいな...」



お弁当ありがとう、とヤマトさんは荷物をまとめる。待機所の方を向いて足を少し踏ん張る。ぴょーんとひとっ飛びかな。

これで今日はお別れかと思えば、ヤマトさんはこちらを向き直した。



「ゆきさん、僕はきみと出会ってからなんだか幸せだよ。今日の献立は何だろうかって、手書きのきれいな文字と、店先のいい匂いと。楽しみなんだ、いつも。」



私はこくりと頭を傾ける。



「...明日もまた、楽しみにしてていいかい」



しおりが落ちないように、本を胸に抱きしめる。
わたしはうん、と頷き手を振った。



「いってらっしゃい」



一日千秋、また明日。



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