ナルト
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「お前...口寄せしたろ。」
「ギクッ」
「それ...口で言ったろ。」
「ギクゥッ」
「はあ、漫才始める気かよ。頭いてぇ...」
「ふふ、ゲンマ兄ちゃんがつっこんでくるから」
放課後、アカデミーの図書室。生徒が居なくなった間も無くだが、日も短くなってきて、室内はオレンジ色で満たされている。
今日は中忍試験の関係でアカデミーに来ていた。懐かしいもんだと学校をウロついてみたところ、図書室で火の国の地図、植物、工芸といった本を机に並べ、ブツブツ言っている着物の女を見つけたのだ。
だが、集中しきって俺が来たにも気がつかない。熱心に料理や材料の勉強か、来週の定食に新作でもでねえもんかとノートを覗くと、さらっと描かれた印の手のスケッチ。開いているのは基礎の忍術の本だった。
「ゆき、もう忍術は使うなって言ったろ」
「んー、」
「忍には絶対ならねぇって豪語したのになんで今更こんな勉強を...」
「んんー」
今集中してるの、と静かにするよう促される。俺はというと勉強の邪魔をしようと本を没収。するとすかさず別の本を開いて再開するゆき。ったくこの女は...
「もうー、ゲンマ鬱陶しい。帰ってよう」
「うっとおし...ってお前、さすがの兄ちゃんも傷つくぜ...」
6人掛けの机で、ゆきの対角線の席に腰掛けた。
どのくらいたったろうか、暫くの沈黙が続いた。集中しきっているゆきには慣れたもんで、ぼうっとその姿や、整然と並べられた本を眺めたりして暇を潰した。窓の向こうは薄く群青色がかかり始めている。
「なあ、そろそろ...」
「ゆきさん、俺そろそろ帰りますよ...っとと、ゲンマさん、お疲れ様です。」
「おう、お疲れさん」
「イルカ先生。私もお終いにしますね」
ゆきの集中が途切れ、ガタッと席を立った。きちんとノートを閉じて、本を抱えて終いにかかる。
「あ、まだいいんですよ。一応他にも職員はいますから...」
...じゃあ何で覗きに来たんだよ、そいつらに頼めばいいだろ。と思うが大人気ないため、口には出さない。
「ふふ、それが、お腹も空いてきちゃって。声かけてくださってありがとうございます」
きゅるる、とゆきの腹の虫が鳴く。
はっと手を腹に当てた拍子に、腕から本が雪崩れ落ちた。
「あっ、」
「とと、セーフ。」
「すみません、ありがとうございます。さすが、忍は速いですね」
「いや恐縮です。いろいろ勉強されてたんですね。植物に、器に、忍術....?」
まずい、
「おい...!」
「みなさん、どんなことしてるんだろうって。お客さんが任務や修行の話をしてくれるのだけど、イマイチ話を掴めないからついでに読んでみたんです」
「そういう事でしたか。はは、子供たちに爪の垢煎じて飲ませたいくらいですよ」
...あせらすんじゃねえよ。
ついで、なんてさらっと嘘ついて、なかなか恐ろしいやつだな...おっぽを口寄せするためだろう。いや、忍の客が多いのは確かだな。勉強をはじめたきっかけ、というやつだろうか。
本をしまい始めた2人を、また、肩肘ついてぼうっと眺める。ん、俺も腹減ったな...
「ところで今日はお店はお休みですか」
「ええ、木曜日は好きなことを自由にする日にしてるんです」
「うわあ、いいですね。俺も湯治に行きたいなあ」
「湯治?!ふふ、渋いですね」
「はは、ナルトにジジイだと笑われましたよ。...今日ほろりに行こうと思ってたんですけど、予定変更だ。一楽でメシ一緒にどうですか?」
「ラーメン!ぜ..「いつまで待たせんだー」
ほい、ほいっとゆきが抱えている本を棚に戻す。"わあ、助かる"と、こっちの気も、腹も知らねえでよ。
「悪りぃな、イルカ。今日は予約済みなんでな」
「そうでしたか...俺の方こそすみません」
「えー、ラーメン...」
ぶうたれるゆきは、"ナルトみたいな事言って"とイルカに笑われる。
「じゃあ、出るときは電気だけお願いします。鍵は最後の人がまとめて施錠するので」
「分かりました。...イルカさん、またラーメン誘ってくださいね」
イルカは、その時はぜひナルトも一緒に、と一声添えて爽やかに去っていった。
「さて、何が食いたいよ?」
「...んー、じゃあお寿司、板前さんの」
「無茶言うな、どんだけすると思ってんだよ。...出前とるか。」
「ふふ。だよねえ。茶碗蒸しは届けてもらえないかなあ、あ、作っちゃえば、」
そういうゆきを制し、たまには缶酒買ってのんびりやろうやと提案する。
「デザートも買っていい?」
「ん、そーだな...デザートは、」
説教だけどな。