ナルト
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「うん、うまい。」
日替わり定食を頬張る。いささか冷えてしまったが、相変わらず疲れた身体に染み入る美味さだ。
「ふふ、ありがとうございます。」
「チュン」
「もう、おっぽたら、なんでも返事するんだから。おっぽに言ったんじゃないのー」
おっぽという白くて丸くて尾の長い可愛らしい小鳥の登場で、先ほどの気まずさは少しなくなった。ラブコメのようなオイシイ場面があったのも、いや、思い出すまい。顔から火が出そうだ。
そしてゆきさんは気を悪くしたのでは無かったようだ。おっぽという小鳥に薬草を頼んでいるのを見たところ、薬膳料理を作ってくれようとしていたみたいで、
「あの、ごめんなさい。顔色が悪いなんて失礼なこと言ってしまって...」
「いえ、おそらくそれは本当の事だ。任務終わりで、それに...」
「それに?」
「...少しカリカリしててね。あなたに当たってしまった。労って声をかけてくれたのに、申し訳ないです。」
すると少し眉を下げて笑う彼女。空になったグラスをカウンターの向こうへ下げていった。
カランカランと氷の高い音と重ねて、大丈夫、そんなこともある、と柔らかい声。やんちゃな部下と人使いの荒い上司のために、それを支えようと頑張ってるんだから、
「愚痴も疲れも、ほろりほろりとここで落としてって?」
ね?と麦茶で満たされたグラスを差し出しながら、じっと眼を見つめられる。
この人には幻術をかけられてるんじゃないかと思うくらい、自分の思いもよらずに身体が熱くなる。
いつもナルトや先輩のように、華やかな人物が周りにいるから。僕の陰の仕事ぶりを陽の下に出してくれるなんて。
目頭もじわっと熱くなる。
と同時に、左手に一点の冷たい感覚が訪れる。雫が落ちたようだ。
まずい、うっかりしてたら、
慌ててグラスを受け取り誤魔化そうとしたところ、スッとそれをかわされる。
「ああ、結露ができちゃった。ちょっと待ってくださいね。」
こちらに背を向けて布巾で雫を拭う彼女。
僕も念のため目元を拭った。
「チュン、」
カウンターの上を、おっぽがずりずりと小鉢を引き摺ってきた。
「ん?なんだい?これ...うまいな」
「どうしました?こら、おっぽったら、そのお浸しは夜にお出しするものよ」
台所を覗くと、仕込み途中のお浸しと竹ザルにユキノシタが積まれていた。
叱られてか、当の小鳥は毛を膨らませて一層まんまるになっている。
「もう、薬草だからって、顔が赤いからって熱があるわけじゃ」
「えっ」
「ん、あれもしかしてヤマトさん本当に熱出てます?」
「いや、僕はこのとーり元気だ」
そっか、今日いつもより暑いですもんね、とまあ呑気なお方だ。ゆきさんはこちらに背を向けて夜の仕込みをする。
「...気遣いありがとう、おっぽ。解熱効果があるなんてよく知ってるな、今度の任務、医療班として一緒にどうだい?」
「チュン、チュン!」
「はは、元気出たかい」
カウンターの上でしょぼくれてお浸しをちびちびと摘んでいる小鳥を励まそうと話しかけた。そりゃあそうだよなあ、
「熱が出たのはゆきさんのせいなんだけどね?」
叱るなんて、ひどいもんだ。