ナルト
□24
1ページ/1ページ
「ありがとう、すっかりよくなりました」
昨晩、疲労からか熱を出して倒れ、ほろりにご厄介になってしまった。半分ほど開いた襖から店主が声をかけてくれた。
「よかった。熱も下がったし、顔色もよくなってますね。朝ごはん食べれそうですか?」
「ああ、お腹空いてるくらいで...あ、いや、お構いなく」
「ふふ、そう言うと思って」
"作っちゃいました"
襖が肘で開けられ、出汁の優しい匂いが漂う。手元に見えたのは赤色の手ぬぐいと黒色の大きな土鍋。
鮮やかな赤色に昨晩の彼女の口元が記憶に鮮烈に蘇ってきた。
そうだ、ナルトたちが帰った後...!
「っ、ご、昨日はごめんなさい、僕、頬に」
ぎりぎりの理性で口付けとはならなかったが、そうしようと身体が動いていたんだ。頬にも触れた。ゆきさんは嫌だったに違いない。ああ、なんてことを。
「頬...あぁ。ううん、いいの。ちょっと恥ずかしかったけど、その、気持ちは有難かったです。」
「え」
座敷に上がった彼女が僕の横へ正座する。ふふ、とすこし恥じらいながら"一緒に食べましょ"ととんすいとれんげも出してくれた。
なんだか目眩がしそうだ。
熱はもう下がっているけれど。
「ゆきさん」
「んー?」
これはフェアじゃあない、すまないと、食事をつぎ分ける俯いた横顔に思いつつ、左手は彼女の右頬へと伸びていく。
「ほっぺに付いたタレを拭ってやろうなんて、昨晩はなかなかジェントルマンだったなあ、ヤマト。」
背中がぞくりとする。触れそうになった指先を残して、ゆきさんの頬は声の主の方へと向いてしまった。
「も、もう!恥ずかしんだからやめて。はい、カカシ先生もどうぞ」
「どーも。いただきます」
「ささ、ヤマトさんも。って、あれ、またほっぺに何かついてました?」
行き場を無くした僕の手を見て、ゆきさんはぺたぺたと自分の頬を触り始めた。食べかすなんかが付いていないか確認しているのか。
幸か不幸か、頬に触れようと口付けしようとした俺の下心は、みたらし団子のタレによって親切心として受け取られたみたいだ。
ああ、よかった...
土鍋からよそってくれた雑炊を一口食べる。ふんわりしたかき玉がすごく美味しい。
...けれど先ほどのは違うのであって。
「大丈夫、付いてないですよ」
「ええ!じゃあこの手は?」
「墓穴、だーね」
「先輩...!いやその、あのですね」
「んー?」
くそ、先輩がこの場にいなければ。
「あっ、唇に「ごほっ」
やっぱり何か付いてた!摘み食いの...って、
ヤマトさん、大丈夫?」
「げほ、ああ、大丈夫。すみません」
「いえいえ、お冷持ってきますね」
ゆきさんは、するりと座敷から降りて台所へ行ってしまった。
柔らかい空気から一転、ぴんと張り詰めた緊張感が走る。
「なるほど、唇狙いってわけね」
「なんで帰ってないんですか」
「ゆきちゃんとお前を二人きりにさせるわけにはいかないからな」
近頃気にかけていると思ったら、そういうことだったのか。木の葉一の業師も相手とは、なかなか骨が折れそうだ。選ぶのは彼女なんだけれども。
「その台詞、そのままお返ししますよ」
まずは二人での食事にお誘いしよう。