ナルト
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「う...収支ぎりぎりかあ」
すかっと晴れた空の下、子供達が身体いっぱい動かして遊ぶ声が聞こえてくる。
一方、私は蛍光灯の下、帳簿をつけて溜息をつく。
同じだけの赤と黒で埋め尽くされた帳簿で目がちかちかしてしまった。窓のむこうの新緑で目を癒す。お店を構えてひと月、売り上げの整理をしたのだけれど、思いのほかギリギリ黒字、といったところだった。
「それ、客の前でやるなよな」
「ぎりぎりだなあ、昼定食もう1品食べてってくれないかなあ」
今日は、今日も、ゲンマがお店に来ている。彼は1番の常連さんで売り上げも貢献してくれているのだけど、あと一押し、と今度は新緑から色素の薄い彼の目へと目線をうつした。
「あーあーあ、なんも見てねえ聞こえねえ」
「けち、」
「黒字増やしたいなら、お前はもっとケチにならねえとだな。サービスしすぎだ、特にナルトに」
う、耳が痛いです...。
確かにそうなのだ。来てくれたのが嬉しくって、ついつい初回おまけをしていたら、初見さんが多い先月はそればかりに。
ナルトくんなんて、気持ちいいくらいの食べっぷりで、いつの間にかご飯超大盛りが定番となっていた。
…この間チョウジくんが来たときの、スーパー超大盛りはさすがに料金を頂いたけれど。
サービスを除いても、まだまだお客さんは少ない。チラシも定期的に出して宣伝してたんだけどなあ。クチコミたれこみが必要なのかな。
「昼時だっていうのに客は俺だけっていうのもマズイよな、」
「....今日は木曜日です。」
「あ、定休日だったか。そりゃ悪かったな。でも煮物のいい匂いしてきたしよ」
どれだけ南瓜が好きなのー。それにわざわざ自宅の方の玄関から入って無理やり店開けさせて、そのこと忘れてるなんて、ずうずうしいなあ。
「お店宣伝してくれるなら、許してあげる」
「いーぜ」
え!ほんとに?!ちょっとしたいじわる心、冗談で言ったつもりで、"ばーか"という返事を想像していた。思いの外 協力的な彼に驚く。
この間も意外な一面...そして赤面...なことがあったし、幼なじみのお兄ちゃんとはいえ、知らない事は多いのかもしれない。
「来週、任務が済んだら飲みに来るから」
生姜焼きを頬張りながら、甘党がいるからデザート必須な、と一言。
もしかして、女性の方を連れてきてくれるのかな。ゲンマってもしかしてモテてたりして。
また知らない一面を見つけてしまって、この件に関しては、ちょっとにやりとしてしまう。
「なにニヤついてんだ」
「んー?ふふ、楽しみだなあ、来週っ。ささ、早く食べて、買い出しに行っちゃうよ
」
「もう一品て言ってたのによ、ったく、マイペースな奴」
ごめんごめん、気が早いよね。来週の献立の思案を兼ねての買い出しに、ついやる気が出ちゃった。
気持ちを落ち着けるのも兼ねて、彼への食後のお茶をじっくりと淹れてみた。
定休日だからこその、のんびりした時間、利益関係なくご飯を振る舞えるのもいいなあ。
「ねえゲンマ、今日は お代はいいから、またこうしてお休みにご飯食べに来て?」
ゲンマは千本を揺らして、困ったような顔をした。
ああ、いけない。
またサービスしちゃうとこだった!