ナルト
□07
1ページ/1ページ
「ほうれん草好きだったよね」
確かそうだった、と胡麻和えを小鉢に盛り付け、お座敷に座った彼へ、熱燗と一緒に差し出す。
ゲンマはしかめ面をして千本を揺らす。いくら好きとはいえ、お酒のアテにはならないか。
「いや嫌いだよ」
「え。毎日ほうれん草でもいいって言ってたでしょ、嫌いなのは南瓜で...」
「逆だよ、逆。」
あちゃー。そういえば昔お弁当作ったとき見事に残してたっけ。
「残念ながら南瓜はないのです。何食べる?」
「南瓜以外も食うから、俺。ほうれん草は嫌だけどな」
「三十路なのに好き嫌いかっこわる。」
「みそっ...お前なぁ」
「ああ、美味しい麹味噌があったんだった。蒸かした大根と頂きましょ」
マイペース女め...とゲンマがぼそっと悪態をついた。今日は美味しそうなほうれん草を沢山買ってきたんだからね、と言い返しておく。
大根が蒸されるまでの、お漬物や市販のおつまみを用意する。ちゃっかり自分のお猪口も。
「おいおい、ガキは呑むなよ...いや、そうか、もういい歳だったな」
「そ、立派に大人でしょ?」
そう言って腰に手を当て、ふん、と胸を張った。
「自分で言ってるんじゃあなあ、まあ、そちらさんはだいぶな」
「いやだあ、早くもオヤジになってる」
彼の目線がちらと胸元に落ちる。そんなに変わってないはずだけど、いつも和服だったからかな。ていうか見ないでよ、変態。
「で?この10年、どうしてたんだ?」
「火の国にはいたよ。家族で大名様のお食事を作ってたの。私は姪っ子様にお付きしてたんだ。」
「へえ。おじさんおばさんは元気にされてるか?」
少し酔ってきたのか、ゲンマが饒舌になってる。
「うん、ピンピンしてる。2人とも相変わらず料理してるよ。料理忍者制度がなくなってからどうなるかと思ったけど、ほんといいご縁を頂いたと思う」
「ほんとにな、大名に付くなんて大したもんだぜ。何も木の葉で小料理屋じゃなくてもよかったんじゃねえか?」
「え、ええと...前から自分のお店は作りたいなって思ってたんだ。」
「ふーん?それは初耳だな」
そう、あれは姪っ子様のお夜食でおにぎりを作った時のこと。薄明かりの中で作ってたから....って、こんなこと恥ずかしくて言えない。
たらこと辛子明太子を間違えてクビになっただなんてね。