銀魂 攘夷

□誰が人攫いやら
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暫くして、ヅラと辰馬に一言残し、俺も遊郭を後にした。高杉の野郎と意見が合うなんざ胸糞悪すぎるってんだ。

奴に追い付かないよう、ゆっくりと歩く。そのはずだったが、何やら裏道の入り口で突っ立っている。後ろ姿が見えてきてしまった。



「オラさっさと進め〜。折角ゆっくり歩いたのにお前が突っ立ってるから追いついちまったじゃねえか。なんでてめーと仲良く2人で下校しねーとなんねぇの。あ、そうか新入生は6年生と一緒に帰るんだっけか」

「...お前が先に行けば済むだろ。それに静かにしろ煩え」

「あん?おいおい、何か覗いてたのか、高杉くんよォ。発散できなかったからって覗きは駄目でしょ、覗きは」



高杉が一層、俺に睨みを効かせた瞬間。先程の目線の先から、女と男達の声が聞こえてきた。



『離して、ウチに帰して』

『どうどう、落ち着けお嬢ちゃん。』

『遊郭目の前に家が恋しくなったか?』



カカカ、と男が高らかに笑う。高杉が見ていたのは、女衒と売られた女の揉め合いだった。



『何度も言うがなァお前の家業は傾いていた、親に売られた、家族を助けた。それがてめーの運命だよ』

『ほら大人しく来い。なかなかいい商品だ、傷をつけるわけにもいかねんだ、そう暴れるな』



親に売られたという言葉が女に刺さったのか。暴れていたのがぴたりと止まった。手首を掴まれたまま、膝を折り崩れる。女は項垂れて男達に懇願する。



『嫌よ、やっとおじいちゃんに修行つけてもらえることになったのに。お願い、帰して...』

『修行?呉服屋がなんの修行するんだ。商売上手になりてぇならココも悪くないんじゃねぇか』

『呉服屋?私は甘味屋の娘よ...』

『甘味屋?』



途端に笑い声が消えた。男達の会話の雲行きがあやしくなる。



「甘味屋か、何か美味いの作ってくれっかな」

「...黙れ糖尿」



誰が糖尿だ、若いうちからなってたまるかってんだ。



『界隈には娘は何人かいたな。呉服屋に赤い着物の娘がいたが、それは駒遣いだと。店主が、店の外にいたお前を指さして、娘だと言ったんだ。間違いねえだろ?』

『そうだよなァ、俺ァはじめびっくりしたぜ。あの娘っ子を買うにしても、幾らにするかな。裏方にしかなれねえってなぁ』

『その呉服屋の通り向かいが、ウチの店よ』

『はあん、俺らは店主にまんまと騙されたってわけだ。通りでお前さん砂糖の甘い匂いなんだなァ』



そっか、とつぶやくる女の顔は、希望か絶望か、どうも表情が読み取れない。



『だがなあ、お嬢ちゃんよ。金はもう渡したんだ。今から戻って娘取り替えるほど俺たちは優しくないぜ』

『お前さんなら花魁も夢じゃねェな』

『それは買い被りすぎってやつよ』



それは絶望だったようだ。
腕がちぎれるんじゃないかというくらい身体を引かれ、籠へと連れていかれる。あれ、傷モンにしちゃいけなかったんじゃねーの。

高杉がぼそりと声を発する。


「胸糞悪りィ」

「...俺ァお前と同意見なのが胸糞悪りィ」

「は、その台詞そのまま返してやる」


俺はのそりと立ち上がり、女衒たちの方へ赴く。銀時、という高杉の静止の声は耳に入れない。


「おいおい、売りもんなんじゃねえの。あ、クーリングオフ?なら俺が連れてってやらァ。それとも甘味屋の娘っ子なら買ってやろうか、甘党の俺にピッタリ。お代はゲンコツでっ」



話はとても早かった。

ガツンという音の後、気がつけば女の手を引いて裏通りを駆け抜けていた。
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