銀魂
□山崎退入院日記
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山崎退 入院日記15日目
あれから何人かお見舞いに来てくれたが、顔がみんなゆきちゃんに見える。
ゴリラみたいなゆきちゃん、
タバコ臭いゆきちゃん、
Zっと黙っているゆきちゃん、
B-BOYなゆきちゃん。
時折、ゆきちゃんが味の薄い食事を持ってきてくれたりお風呂の介助をしてくれたりした。
今日も俺は幸せで胸がいっぱいだ。
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山崎退 入院日記20日目
今日はスラっとして髪をくるっと巻いたおしゃれなゆきちゃんが来た。
そしたら、ゆきちゃんが
「これ、ゆきちゃんから言付かったの」
っておかしなことを言う。だからよくよく見たら蓮ちゃんだった。
俺はしばらくゆきちゃんの幻覚を見ていたようだ。昨日のゆきちゃんは頭が禿げ上がってるし髭が生えているしで驚いたが、あれはきっと原田だ。流石に可愛くは見えなかった。
もしかして副長にもタメ口だったんだろうか。どつかれはしなかったものの、殺気を感じたのはそのせいか。
さておき彼女とのやりとり...
毎度毎度、俺は誰に説明をしているんだと思いながら、筆が止まらない。
つれづれなるままに...と兼好法師も書いているが、こう言うことだろうか。
「これ、屯所の近くのお菓子屋さんのなんですって。そろそろ恋しくなってるだろうからって」
「そっか、嬉しいな。蓮ちゃん忙しい中来てくれてありがとう。」
「ううん、大丈夫です。ゆきちゃんもずいぶん心配してるんだけど、どうしても来れないみたいで」
それからたわいの無い話をして、お見舞いのお菓子で一息ついた。そうしたらすこし躊躇しながら蓮ちゃんが口を開いた。
「...あのね、私、あの子のこと、大好きなの。私が屯所で働く理由もそのひとつ。ギスギスせずにこんなに居心地よく接してくれる同僚に会えたの初めてなんです」
急な告白。アレか?百合のフラグが立つから俺には身を引いてくれということなのかと驚いた。だがそれは余計な憶測。蓮ちゃんの想い他人は副長だ。
「それとね、私が働くもう一つの理由が」
「副長でしょ」
「え」
「監察もなかなかのもんだろ」
「はい」
図星に当たり、驚きながらもくすくすと笑う。
「山崎さんはゆきちゃんのことが好き、ですよね?」
女中もなかなかでしょと返されてしまった。
見てたら分かるのだけど、ウワサにもなってますよ、と付け加えられる。
だけど、と彼女は表情を暗くする。どうしたのか問えば、認めたくは無いのだけどと話を続けた。
「だけど、土方さんはゆきちゃんのことかなり気になってると思うの。ゆきちゃんもそう」
「やっぱりそうか...それは確かに認めたく無いよね」
「最初は部下として可愛がっているのかなと思ったけど」
「...でもさ、仮にそうだとしても、仕事人間だろ、恋愛する気もあるかどうか」
と言うと、そう!そこがポイントなの!と蓮ちゃんは両手をグーにして上下させた。
それは可愛い仕草で、ゆきちゃんもこんなことしてるの見てみたいと思った。
想像してみたが、勝手に映像に補正がかかる。手にザルを持って洗ったレタスの水切りをする姿だ。これがリアルってとこ。
「あの...山崎さん?」
「ごめん、ええと。ああ、なるほどね、そういうことか」
つまりは同僚との関係も大事にしたい、副長との恋も成就させたい。だから本人たちがその気になる前に俺たちが頑張ろうということだった。それを口にすれば、流石です、と拍手をもらった。
それからまたたわいの無い話をし、蓮ちゃんは帰っていった。これといった約束はしていないが、暗黙の了解、協定を結んだことになる。
そうとなれば、屯所に戻ってからが本番だ。
看護師さんがゆきちゃんに見えなくなったのは少し惜しいけれど、本物に会えるのはもう少し。
食堂のごはんももう少しで食べられる、と今日も俺は味の薄い病院食を食らう。