ナルト

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ぱら、ぱら。カチ、コチ。

ページをめくる音と時計の音が、ゆったり、静かに、心地良い。

時折、解説をくれる彼の声が私の耳をくすぐった。



「...だんだん図面の見方が分かってきました。なんだか、はまっちゃいますね」

「でしょ。ああ...そうだ、これ、ゆきさんに」



そう言って鞄から出された一冊の本は、ぽん、と私の手元にやってきた。



「道中に立ち寄った本屋で...、お土産です」

「私に?!任務で忙しかったでしょう...」



そう言いかけるとヤマトさんの目が細められる。柔らかく、私の言葉を遮るみたいに。

“ありがとうございます、”

お礼を述べ、表紙を開く。それは台所のしつらえについての本だった。

次々飛び込んでくる見たことのない色んな台所。この釜だったら、どんなふうに料理が出来るんだろう。

わくわくしながら、ページをめくっていった。




どのくらい読み耽ったかは判らない。

ただ、烏の行水だというナルトくんがまだお風呂から上がっていないから、そう長くは経っていない頃。



“好きな人と好きなことをできるなんて夢にも思わなかったな”



隣から、小さな呟きが聞こえてきた。



「今、何か...」



声の主の方を見遣ると、変わらず視線は本のまま。

“...夢にも思わなかった”

聞こえてきたことばを反芻する。


それは、1度では終わらない。

ヤマトさんの声が、同じことばが、何度も頭を巡る。

心地よく響いていたはずの時計の音は、どんどん大きく忙しくなって、胸をぎゅうっと締め付けた。



「ん、なんだい?ゆきさん」

「あ、の、」



運良くか、悪くか、私の視線に気がついた。

一瞬、彼の目が見開く。



「あれ、もしかして僕ー...」



ヤマトさんは、あれ?嘘だろ?いや、でも確か、と自問自答して狼狽えている。

そんな彼に、ただ一言、私の思うことが言えたなら。

だけど、彼は本当にそう言ったのか。私の理想がことばを補っているのか。勘違いしちゃいけない、冷静になれ、落ち着いて。



“ヤマト...さん”


堪えきれず、名前が溢れでてしまった。

耳に響く規則的な音は、時計の音なのか心音なのか、もう区別もつかない。

そんな中で、ヤマトさんは身体をこちらへ向き直し、口をゆっくりと開いた。



「ゆき「ねーちゃん!」

「はい...っ!...あれ?」



声がしたのは、目の前の彼ではなく、背後からだった。



「タオル何処だってばよ」

「タオル」



振り向くと、口をとんがらせて不機嫌そうなナルトくん。その髪はびしょ濡れで、見てるこちらが湯冷めしそうだ。



「無かったけど女の人の家探るのもわりーしよ、」

「うん」

「けどねーちゃん、俺何回も呼んだのに来ねーからさ、来ちゃった」

「ご、ごめんなさいナルトくん!もう一回お風呂場に戻ってて、すぐに出しに行くから!」

「はーい。あ、だからさ、床濡れたけど堪忍してくれってばよ」



勿論、怒んないよ。
ナルトくんが風呂場に入る音を聞いて、階下へ向かう。




“これがお約束ってやつか、”

部屋を去る際に見えた、苦笑いの彼。




私も同じ気持ちです、ヤマトさん。


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