銀魂
□女と仕事、男と煙草
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「山崎さん」
お礼と帰りの挨拶を言いに、部屋を訪ねる。
彼もちょうどお風呂上がりのようで、着流しに少し濡れた髪。障子を開けて部屋に夜風を入れていた。
「お風呂ありがとうございました。お陰で疲れが取れました」
「それならよかった。あ、ゆきちゃん麦茶飲む?あ、座布団これ使って」
「ふふ、ありがとうございます」
何が可笑しいのか、という顔をするので、至れり尽くせりで嬉しくて、と素直に気持ちを伝えた。
冷たい麦茶を飲みながら、今年の花火大会はいつだとか、如何に警備を抜け出してテキ屋を楽しむか作戦を練ったり。ほんと税金泥棒だなって思ったり。
話の切れ目にふと外を見ると、空にすばるがはっきりと見えた。
「俺の部屋はターミナルとは逆方向にあるからさ、結構見えるんだよ。ちょっと出て見るかい」
私の視線に気がついた山崎さんは、そう言って外へ出て、私を手招く。2人並んで縁側に腰掛け、空を見上げた。
明るい星が5つほど集まっているのが見える。
「そっか、星、たくさんあったんだよね」
「江戸は明るいからね。故郷はよく見えてたの?」
「ええ、夜は星を数えることしかすることがないくらいでしたから」
「はは。武州と似たようなもんだね。武州はゴロツキが多くて喧嘩しかすることがなかったよ」
「もう。喧嘩と一緒にしないでくださいよ」
暫く、ぼうっと星を数える。よく見えるとはいえ、2人分の指だけで足りてしまいそうなほど。
故郷の空はどんなだったか。柱にもたれ、ゆっくり目をつぶる。
...
......
『39、40、4あ、これ数えたやつか、えーと』
『てめェ何ブツブツ言ってんだ』
『星数えてるの』
『暇なヤツ。つーか女が夜に一人で外にいるもんじゃねェよ。喰われてえのか』
『大丈夫、今ひとりじゃなくなった』
『屁理屈ばっかりアイツに似やがって』
『太刀筋はどう?似てきた?』
『...デタラメに似るもんじゃねェよ。俺が教えた方が早い』
『ふふ、あとひと月だもんね...』
......
...
「...ちゃん、ゆきちゃん?だめだ、完全に寝てる。つーか寝るの早っ。
まあ、そうだよな。同僚があんなで、サービス残業してさ...よしよし。うわ、髪サラサラ。隊長にも負けてないんじゃないかコレ。
...にしてもなんで寝ちゃうかな。人の部屋の前で、風呂上がりに」
「なでなでしながら独り言なんて、何してるんですか、山崎さん」
「えっあっ、起きてた?いや、蓮ちゃ、うわぁあ副長!!!」
ドサァッ
「...んぁ、ふぁ〜あ。なんか懐かしい夢...」
ぼんやりと目を開けると、ぱちん、と懐かしさが弾けてどこかへ行ってしまった。
原因は庭に落っこちた山崎さん。せっかくお風呂上がりなのに、何してんの。庭に降りて、手を差し出す。
「ありがと、大丈夫だよ。イテテ...それより、蓮ちゃん体調良くなったんだね」
「土方さんのおかげです。ね?」
「あ?年休とキャベジンのお陰だろ」
「も〜」
振り返って見上げた先の、肩と肩の隙間が目に入った瞬間、身体が強張ってしまう。
「ゆきちゃん、まさか今夜は泊まり込みで仕事?もう22時だよ、いくらなんでも...」
的外れな蓮ちゃんの発言に私の緊張感はあっけなく崩れた。あんた今日1日寝てたでしょ...この子は私が仕事人間だと思ってるから、こうして甘えられるのかな。
「男世帯に泊まり込みなんざさせられるか」
「じゃあ私も今日は帰らないとですね」
「ったりめーだろ」
「...副長、何か俺に用事でも?」
「お前に用事があるのは俺じゃねーよ」
もしかしてお礼を言いに来たのかな。そうだよ、山崎さん今日すごく頑張ってくれたもの。でも、
「じゃあ副長は何故?」
そうそう、何しにこんな屯所の外れに。
「んだよめんどくせェな。喧嘩売ってんのか?あ?」
「めめ滅相もない!ったくなんでそんなに不機嫌なんですか...けど、2人して歩いてるなんて珍しかったもんで」
「べつにいーだろ、ほら蓮、話」
「あ、ハイ、あの、山崎さん、」
すかさず山崎さんの前にきちんと正座をし、申し訳なさそうに話を切り出す蓮ちゃん。
こういうところが、憎めないのかなぁ。
自然と頬が緩み、今日のもやもやが少しずつ晴れていってしまう。
甘え上手で、謝り上手が、愛され女の秘訣かな。