銀魂
□知りたるも仏
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「次は何するの?」
そう言って自ら仕事をしようと声をかけてくれる山崎さん。なんだろうこの降り注ぐ光と感じるアガペー。
「って、太陽か」
「?」
カラッと晴れた空が気持ち良い。陽気もやわらかく、肌を撫で温めてくれるようだ。洗濯場から草履を履いて、外で深呼吸をした。
「今日はお天気ですね。えーと、次は洗濯物干し、廊下の水拭き。あ、今日は月曜だから玄関の方を念入りに」
「へえ、曜日によって丁寧にするところ変えてるんだ」
「全部やってると間に合わないの。それでも年末の大掃除が少しでも楽になるように、ね」
へえ、ほー、ふーん、と相槌を打ちながら女中仕事のスケジュールを聞いてくれる。けれど全部手伝ってもらうわけにはいかないから、物干し竿をかけるところまでやってもらおう。いつも、すらっとした蓮ちゃんがやってくれるところ。
「俺、今のところ仕事はないし、1日手伝うよ」
何を言うか。毎回あんな報告書を出しておいて...はっ、もしかして左遷されたのかな。ここは触れない方がいいかもしれない。
「大丈夫、たまたま忙しくないだけだから。し役職外されたとかないから。一応監察ではトップ張ってるからね、俺。」
「...さすが監察トップ」
「はは、そういうことにしとこうか」
「だけどここからは私だけで大丈夫ですよ、お陰でお昼の準備も早く終わったし。蓮ちゃんの看病おねがいできませんか?」
「うーん、それは副長がいいんじゃないかな」
「土方さん?」
それじゃあだめだ。私のナイスアシストが失敗に終わってしまうんです。蓮ちゃんは山崎さんが...
「そりゃあ蓮ちゃんは副長に気があるからでしょ」
「え」
カラン、と竿が地面に落ちる。
「あ、これ言っちゃ駄目なやつだった?」
すると山崎さんは気まずそうにしながら竿を拾って引っ掛けてくれた。
「というより私の見当違いでした。いや、山崎さんが違うでしょ」
「違わないよ。いつも副長の話題になると逃げるだろ。あの後火照った顔冷ましてるんだよ」
「えええ!それじゃあこの間のは山崎さん見て照れたんじゃなくて」
「そ。だから副長と似た者同士の万事屋の旦那もまんざらではないんだろうね。知らないの?副長の部屋の掃除にトライしようとしてるのをさ」
「それは知ってたけど、ヤニ落としたいのだと」
「ヤニってアンタねえ」
2本目の竿をぎゅうと握りしめる。それじゃあ、今日彼女が、
「呑んだくれてたのは、サボったこと副長に突かれたからかもなー、はい、それも貸して、掛けるから」
「ちがう、」
「それじゃないの?あれ?」
「そうじゃないです」
「じゃあ、これか」
と少し錆が付いた竿を手に取る山崎さん。実はどれでもよかったんだけど。竿のハナシじゃないんだけど。
きっと、土方さんや銀さんと飲みに出かけたことが彼女の耳に入ったのだろう。それが原因なら。
「どうしよう...」
ああ、と空を仰ぐ。綺麗なブルー。気分もブルー。ブルー違いもいいとこだ。
「気にしすぎだよ、今まで知らなかったんだろ。これからもそれでいいんじゃないの」
「あなたがそれを言いますか...」
「あはは...ゴメン、なんか。ゴメン」
「ううん、大丈夫です」
それは蓮ちゃんにね。私にとっては、知れてよかったことなのだ。罪なことを重ねてしまうところだったから。
「よし、干し終えた。次は雑巾掛けだよな」
「ありがと、山崎さん」
「どういたしまして」
私の感謝のことばは、彼の思うものとは違う意味。それも監察だから気づいているのだろうか。
山崎さんは少し申し訳なさそうに微笑んだ。