銀魂
□am
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9時半。1時間かけて、やっとお皿洗いが終わった。9時からもう1人女中がくるはずだけど、来ないなあ。
一日の仕事のなかで一番しんどいのはこの作業。
先月まで手荒れが酷かった。それを目敏く見つけた山崎さんが菜種油石鹸(液体)を買ってきてくださって、最近は手がつるつるだ。
山崎さん曰く、
『いい匂いだからって合成洗剤はお肌に良くないよ。やっぱり自然由来じゃないとね、ホラ今流行ってるだろ、ボタニカルとかココナッツとかアボカドとか』
なんて乙女なアドバイスをしてくれた。
『あっ、俺さ、よく女装して潜入調査があるから肌には気をつけてるんだよ。
ゆきちゃんも、身体使う仕事とはいえ、女の子捨てちゃダメだよ』
と、ウインクまで添えて。
山崎さんこそ男捨てないでくださいね!と心の中で舌を出しかけて引っ込めてお礼を述べました。
アレ作文?とか思ってたら廊下からパタパタと足音が聞こえてきた。
「ゆきちゃん!遅くなってごめんね、もうお皿洗い終わっちゃった??」
「おはよ、蓮ちゃん。ちょうど洗い終わったところ。もうちょっと早く来てくれると嬉しいな」
「ごめんね、ほんっとーにごめん!明日は遅刻しないっ!」
「いいよ、明日は9時にお願いね」
「うん!」
レンちゃんは同い年で、同じ頃に女中になった。私と打って変わって、きちんと女の子をしてる。明るめのゆるふわな髪型に桃色の小袖、可愛らしい性格。羨ましくなっちゃう。
そして次の仕事も、また洗い物。昨晩溜まった洗濯物を洗濯機に突っ込んで、今はスキマ時間でお庭の掃除。
「朝何かあったの?一人暮らし始めたばかりでしょ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。朝支度が遅かっただけなの」
「朝ご飯とか?」
「そうそう!私、掃除洗濯は好きで、お料理苦手でしょ、手こずっちゃうの」
そうそう。蓮ちゃんは洗濯が天下一。アイロン掛けなんて、ぴしーっとシワひとつなくかけられてクリーニング屋さんよりも上手。だから彼女は料理当番はなく、洗濯掃除専門なのだ。
「そっかあ、料理ちょっとずつ練習してく?お昼ご飯の仕込みは勤務時間内だよ」
「んー、けど、隊士さんたちのお部屋掃除の依頼があると難しいなあ」
「確かにねえ、人手がもっとあると...」
「ん、そうじゃなくてね、気になってる人が、えっと...」
えっ!これはこれは、恋話というのが始まる?誰だろ、
「ゆきちゃん、副長が」
「きゃ」
「「きゃ?」」
「あっ、ううん、何でもないんです!私、向こうお掃除してくる!!」
「向こうはさっき...」
「おっおい、蓮ちゃん」
突然向こうへ駆けていってしまった。これはこれは。聞かなくっても、もしかしなくても、
「山崎さん...!」
「ん...?」
「いえ、蓮ちゃん行っちゃいましたね...ここまだ終わってないんだけどなあ」
「うん、2人になっちゃったね」
「...? 3人いて1人いなくなったら2人ですね」
「いや引き算の話じゃなくて。ってまあ分かんないよね。そうだ、副長が呼んでたよ」
「副長が?書類整理には全然早いしなんだろう...あっ、昨日のポテサラに土方さんのマヨネーズ2本使ったのばれちゃったのかな」
「大罪を犯しちゃったね」
やばい。ほんとーにやばい。マヨネーズの事になると怖いんだもの、土方さん。
「山崎さん一緒に逝きましょ、あれー副長のお部屋どこか忘れちゃったなあ屯所広いからなあ」
「漢字がおかしいんだけどォ!!てゆーか分かるでしょ書類整理に夜な夜な行ってるんだから!!」
「夜な夜なっていやらしい言い方するんじゃありません!!」
「してねーよ。というか今日も呼ばれたの?夜に?」
「山崎さんが作文みたいな報告書出すからですよーだ」
う、と苦虫を噛んだような表情をしている。しめしめ、これを餌に副長室まで一緒に...あ、
「じゃあ、今から行ってくるので、お掃除ちょっと抜けるって蓮ちゃんに伝えておいてもらえますか?」
「あぁ、わかったよ」
「ありがとうございます。では!」
ふふ、我ながらナイスアシストかも。
背中越しに、"報告書ちゃんと書こ..."って呟きも聞こえてきて、土方さんのところに行く足取りも幾分軽やかになってきた。
すんなりお部屋の前に到着。
ようし、かかってこいマヨニコ中!