銀魂 攘夷

□誰が人攫いだコノヤロー
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俺ともう一人、寝付いてないのがいた。

隣に寝転がったゆき。何がおかしいのか、くすくすと小さく笑っている。

俺は小声で話しかけた。



「何笑ってんの」

「なんだか嬉しくって」

「...お前、いい度胸してるよな。畳の上で寝て嬉しいのか?それぐらい図太けりゃ、花魁にでもなれたんじゃね」

「図太いって...花魁なんて、きっと男の幻想です」



そして暫く黙ったゆきは、淡々とあの女衒たちとの話を溢し始めた。



....



『お前さん、遊郭って何か知ってるか』

『人攫いにあって行くくらいだから、碌なもんじゃないことだけは分かります』

『は、人攫いたァ傑作だな。客を取れなくなったら地獄だろうが...お前さんを売り飛ばした親父もいってたな、器量良し要領良しで町でも評判だとな』

『まあ上玉なら店から邪険にはされねーな。お前の歳だとすぐに客を取ることになるな』

『お客さんを』

『ああ。普通は禿の頃から舞や三味線と手習があるが、まあそれは厳しいだろうな。これからなら床上手でもウリにして喜ばせるこった。カカカ...』

『ちゃんと初老の馴染みが水揚げをするしきたりだからな、怖い目には遭わんだろうよ』



....


見ず知らずの、自分の親とも歳の変わらない男と合意なくそうなって、怖い目には遭わないっつうのか。


「お前の意思は関係ないってか」

「酷い話でしょう。何が”怖い目に遭わない”よ。...その世界で生きていかなければならない人は、覚悟と誇りを持っているのかもしれないけれど」

「...」

「私は好きなことがあるの。それができる世界で生きたい。雨風凌げて衣食にも困らず不本意な場所にいるよりもね、」



俺があの時咄嗟に取った行動を、善か悪か心中にひっかかっているのを読み取ったのか。
はたまた浜辺での俺たちの会話を聞いていたのか。

ゆきは少しずつ眠気に負けて頼りない声で続けた。



「岩でも畳の上でも寝転んで、明日のごはん何にしようか考えてるほうがずっと幸せ」



だからね、私は助けてもらったの



「私を攫ってくれてありがとう、銀時さん」

「...誰が人攫いだコノヤロー」



そうして布団をかぶって背を向けた。振り向き際、頼りない月明かりの下、微笑み目を瞑るゆきの顔が見えた。


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