銀魂

□ブラックはほどほどに
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立ち寄ったのは、通りから少し離れた河原の屋台。

空きっ腹に焼き鳥の香ばしい匂いでノックアウト。


「俺、熱燗で」

「レモンサワーお願いします」

「んだよ、酌できねーだろ」

「お酌しますから」


そう徳利を傾けると渋々承諾してくれた。

そういえば土方さんとも屋台で、立場を気にせず注いで呑んで。楽しかったな。


「マヨ中ヤローとの時は呑んでたくせに」

ごほっ、

「呑んでたくせによー」


脳内覗かれた?!絶妙なタイミングで土方さんのことを言うもんだから、むせてしまった。
というより、なんで知ってるんだろう。

万事屋の情報網はスゴい。
いや、沖田さんからかも。


「明日、仕事だから」

「社畜め」

「ぷー太郎よりましかなー」

「辛口だな。もっと甘いの飲めよ、ゆきはブラックコーヒー飲み過ぎ」


1時間にも満たない短い時間。

会話はぽつり、ぽつり。
心地よい沈黙と、たわいもない話。サワーと焼き鳥、ときどき枝豆を味わった。


「そろそろけーるか」

「うん」


お会計はきちんと割り勘をした。
大将に御礼を述べて店を出た。


街の喧騒から遠ざかり、月明かりに背を向けて歩く。
通りの地面に、ふらふらと2つの影が伸びていた。


「影も酔っ払ってる」

「まあなー、飲みすぎたか」

「私は2杯だけだよ」

「そうだっけか」

「あー影もぼさぼさ頭」


するとその人影は、もう一方の影の肩に手を伸ばす。


「なあ」

「ごめん、怒った?」

「軽口はすんなり出てくっから不思議なもんでよ」

「ふふ、確かに」

「俺も」

「うん」

「ババァんとこでサクッと行って次の店でゆっくりして」

「うん」

「と、作戦練ってたわけよ」


“そのサクッとが1番の難関なわけ”


その瞬間、人影は1つに肩を寄せ合った。

というには乱暴で、のしかかられたような、千鳥足を支えるいい杖のようだ。


けれども、かかる体重と同じくらい、心臓もぎゅうっと押しつぶされた。


「何よう、今さら」


だから私も軽口しか出てこない。

苦しくて長いような、このまま迷ってしまえと思うような。いつのまにか家の前に着いていた。



「ねみー。歌舞伎町まで帰んねえとだめ?」

「だめ」

「明日仕事だからか?」

「そういうこと」


間も無く、影は2つに分かれる。


肩への重しはなくなったけれど、
暫く心の臓は苦しいままだった。


明日は仕事。早く寝ないと。
そう言い聞かせて、布団に潜る。

瞼を閉じると、すぐに眠りに落ちていった。


長い長い1日もようやく終わり。




ぼさぼさ頭の人影が、ドSの人影に粉々に分けられかけたのは、私の知らない話。


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