□奈落の花
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なぜなら、山崎が人払いをしているからだ。
誰も近づけないようにしている。
自分と沖田だけの空間。
沖田を独占している優越感。
沖田は自分だけを見て死んでいくのだ。
最期を看取るのは土方ではなく、この自分。
この俺だけをその目に焼き付けて、黄泉へと逝けばいい。
歪んだ愛情に半ば呆れつつも、沖田を独り占めしているという事実に満足していた。
「あの桜が咲く頃は、まだ私は生きているでしょうか」
部屋から見える桜の木を見て、ポツリと洩らした。
「私が見させますよ、必ず。私がいる限り死なせません」
沖田の髪を撫でながら、山崎が言い切った。
「頼もしいお医者さんですね、山崎さんは」
沖田はくすくすと笑った。
「冷えますので、障子を閉めます」
山崎は立ち上がり、ぴしゃりと障子を閉めた。
「後で柿を持って参ります」
「柿ですかー、楽しみにしてます」
嬉しそうに顔を綻ばせた。
ふいに目線と目線がぶつかる。
閉じられる沖田の瞳。
布越しで交わされる口づけは切ない。
何度この布越しの口づけをした事だろう。
まどろっこしくなってしまった山崎は、沖田と自分を隔てていた布を剥ぎ取った。
「いけません…っ、ダメです、山崎さん…!」
「ええんです、どうぞ移してください。貴方と同じ病で死ぬんなら本望や」
沖田の前では滅多に使わない大坂訛りで言い放った。
そして、直接交わされる口づけ。
その口づけは甘くて蕩けてしまいそう。
互いの体温が唇から伝わって、体中を駆け巡る。
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