□慕情☆
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秘めたる気持ちは
淡くて切なき想いの慕情ーーー


宗次郎は15になり、土方は23になった。
そして土方が公言した通り、宗次郎は美しく、可憐に、極上の女と見まごう姿に成長した。
剣の腕もメキメキ上がり、異例の10代で免許皆伝も夢ではないだろう。

うだるような真夏の太陽が沈んで四刻程。
土方は酒に酔い、ふらふらと歩いていた。
「あー、クソ…っ、ムカつく」
道場破りで久々に負けたのだ。
しかも、コテンパンに。
自尊心が高く、自信家の土方はそれが許せない。
憂さ晴らしに吉原で酒を飲んだが、女を抱く気にはなれなくて廓を出た。
しこたま酒を飲んだせいか、足元がおぼつかない。
そのまま家に帰ればいいものを、何故か無意識に近藤宅へやってきてしまった。
宗次郎はどうしているだろうか。
そんな事を考えながら、裏口から近藤宅に入る。
もう夜遅いせいか、人の気配がなく、シンとしている。
庭に面している縁側にゴロンと横になった。
酒で火照った体に冷たい板間が気持ちいい。
夜風の心地良さに土方は目を閉じた。
程なくした頃、キシキシと縁側を歩く音が聞こえてくる。
「…土方…さん…?」
聞き覚えのある、まだ変声期途中の少し高めの声が耳に入った。
ぼんやりと目を開けると、宗次郎が自分を見下ろしている。
どうやら風呂上がりらしく、いつもは高い位置で結われている髪を下ろし、手縫いで拭いている。
濡れ髪と上気して桃色に染まった頬がやけに艶かしい。
「こんな時間にどうしたのです?」
宗次郎が土方の横に座る。
「近藤さんはもう寝てしまいましたよ?」
土方からは返事はない。
「土方さん…?」
宗次郎が土方を覗き込む。
その時だった。
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