□秋桜
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「沖田さあーん」
「…鉄くん…」
ちょっとびっくりしたような顔をする沖田に鉄之助はイヒヒと笑った。
「あほう、廊下を走んな」
「いらっしゃい、鉄くん」
沖田はにっこりと笑って、鉄之助を招き入れた。
後ろ手に持っている花を沖田に差し出す。
「屯所の側に咲いてたんです。沖田さんはなんとなく白かなーって思って、白い秋桜を摘んで来ました」
差し出された秋桜を受け取る。
「綺麗な秋桜ですね。ありがとうございます」
沖田が嬉しそうに微笑む。
「風邪、まだ治らないんですか?沖田さんに早く稽古付けてもらいたいのに」
「だったら早く治さないといけませんね」
「もうガンガンしごいてくださいよ!」
「覚悟しててくださいね、手は抜きませんよ?」
「どんと来いですよ!」
沖田がくすくすと笑った。
少し見ない内に鉄之助は成長した。
自分の背丈を超されるのはそう遠くないだろう。
「用事終わったんやったら、はよう帰れ。沖田さんは病人なんや、疲れさすな」
山崎が鬱陶しそうに鉄之助を追い出そうとする。
「なんだよ、ススム。医者ぶりやがってー」
「俺は医者や、医者。お前みたいに暇ちゃうねん。はよう道場にでも行って稽古せえ」
「わかったよう、ススムのけーち!じゃあね、沖田さん!」
沖田に手を振って鉄之助はまたバタバタと走って消えた。
その様子に沖田がふふふと笑う。
「山崎さんて鉄くんの前だと、年相応の男の子なんですね」
「市村と一緒にしないでください」
まだ子供だと言われたような気がして、少し拗ねる。
「あなたはまだ若いのですから、色んな事をたくさん経験して、ゆっくりと大人になればいいのです」
穏やかにその人は笑う。
沖田の微笑みが今は亡き姉に被った。
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