D.gray-man*Novel


□愚かで、愛しい人。
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この人はとても愚かだ。年の割に体の線が細く自分と同じくらい、そのくせに自分より身長が高くて針金細工のよう。城に住んでる間、昼間外に出なかった、というかまず外に出ることすらあまりなかったのだろう。肌の色は透き通るように白い、と言うより青白い。外に出なかったから当然、街に出たことがない。世間知らず、なんて軽いもんじゃない。書物の中でしか見たことのない景色に目を輝かせる姿は玩具を与えられた子供のようだ。泥沼のように薄汚いこの世界を転々と、ブックマンとブックマン後継者として冷めた目で眺め渡り歩いてきた自分とは正反対だ。貧困、戦争、沢山の人間の死。世界の本当の姿に半ばうんざりしていた。だからこそ、AKUMAを深く愛し、自らの手で壊し、それでも心から笑顔で笑う彼がとても滑稽に見えた。
何も知らない。知らないからこそ、自ら飛び込んでいった世界の中で仲間の死を見、心を病み犯され、悲しみ、恨み、絶望し、黒に染まって逝く。彼もいずれそうなる。自分はそんな奴らを感情の感覚が麻痺するほど見てきた。
彼の笑顔がふい、と脳裏を掠る。自分は驚いたのだ。あれほど真っ白で無垢な笑顔を見せる人がこの世にいたのだということに。初めて出会った時のインパクトは凄まじかったけれど。彼のイノセンスが寄生型、と知ったときは安堵した。彼は自分のようにAKUMAの血の弾丸で死ぬことはまずない。自分より死から遠い場所にいることにほっとしたのだ。
自分が黒とすれば彼は白だった。人間に対して冷酷無慈悲なこの世界にかかれば何色にも染まってしまいそうな彼を守りたいと思った。染み一つない綺麗な白色のままに留めておきたいと思った。
(クロちゃん、アンタはとても愚かさ…)
愛しい。
そんな感情を持つようになったのはいつからだろう。
愚かだから故に愛しい。
「クロちゃん」
名前を呼ぶと
「なんであるか」
と純粋無垢な穢れを知らない笑顔がこちらに向けられる。その表情を見て自然と頬が緩む。
「愛してるさ」
沈黙。次の瞬間、白い肌がボンッと真っ赤に染まる。わたわたと焦る彼をにこにこと眺める。自分より十歳ほど歳上の彼の反応を見て素直に可愛いと思う。
「わ、私も…愛してる、である…。ラビ。」
照れてはにかんだ笑顔。堪らず抱きしめると一瞬体がこわばったがすぐに受け入れて抱きしめ返してくれた。
(クロちゃんはやっぱり愚かさ…)
ラビ、と彼の心地よく耳に響く声を聞きながら思う。

もっと呼んで。アンタになら仮染の名でも構わない。アンタがその名をオレの名として呼んでくれるのなら。

残酷なくせに美しい、不規則なこの世界の事、もっと教えてあげるさ。

オレの、愚かで、愛しい人。





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