短編集

□微睡む春は柱に眠る
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 どうにも私は、前世の記憶やら人格やらを持ったまま生まれ変わったらしい。そう結論付けたのは、既に今から1000年ほど前のこと。

 …うん、こんなこと自分で言ってても可笑しな話だと思う。前世の記憶とか1000年とか、いくら私が空想が好きだからって全くぶっ飛んだ話だ。だけど、これは少なくとも私の中では全て事実。決して私の頭がイカれたわけではない。

 ――私に「エアル」という名前がつけられたあの日、私を抱き上げていたあの垂れ目のお姉さんとお兄さんだが、何とこの世界の私の両親に当たる人たちだった。

 初めは何が起こったのか理解できずにいた。だけど、何度か睡眠と覚醒を繰り返している内に落ち着きを取り戻し、私の意識が覚醒している内にお兄さんとお姉さん、もとい父さんと母さんが私に語り掛ける言葉だったり、その二人が会話をしている内容だったりを聞いたりしていると、色々と情報を得ることができた。

 まず、私たちは人間ではないらしい。人間と似通った容姿はしているが、寿命なんかは私たちの種族の方が桁違いに長生きのようだ。

 以前、父さんの「エアルが言葉を口にするのはいつになるのだろうか」という呟きに、母さんが「そうね、まだ5千年はこのままかしら」と答えていた。…真実、1000年経っても私は未だ首がやっと座った程度なのだから、母さんの言う通り、もう暫く私は赤ん坊のままらしい。

 それから睡眠時間なんかも人間と比にならないようだ。前に私が睡眠を取った時には20年も眠っていたらしいが、それでも私たちの種族的には20年の睡眠は短い方らしい。成人にもなると一度の睡眠で2千年も眠るのだとか。

 あとは、私たちの種族は人間より頭がいいらしいということ。初めのうちは気づいていなかったが、父さんと母さんが話している言葉は明らかに日本語ではない。それなのに、私はこうしてその言葉の意味を理解している。

 …そもそも、赤ん坊が本来持ち得ない記憶があるからと言って、脳の作りはまだ未熟の筈の赤ん坊が言葉を理解していること自体が可笑しい。

 これはもしかしたら、その人間より頭のいい種族に私が生まれたからなのか…?と、不思議に思いながら考える今日この頃である。

 …ああ、それからこの世界なのだが、どうやら今は私が前世で生きていた時代よりも随分と遡った大昔の時代らしい。

 私が知る世界よりも原始的で未開である人間の文明に、まさかここは地球ではないのかと考えたこともある。しかし、私たちの種族が太陽光に強いアレルギーのようなものがあるらしく、生憎と私は今世で生まれてから一度も太陽を見たことはないが、文献や伝承では太陽は一つだけだと言われているし、夜空に浮かぶ月も一つだけ。

 前世で私が知る地球と何ら変わらない様子のそれら。…と言っても、判断材料は少ないし私の勝手な考えなので断定は出来ないけれど、おそらくここは地球だ。今のところ私はそう考えている。

「エアル」

 母さんが私を呼ぶ声がする。フカフカの藁の布団で思考の海に沈みながら微睡んでいた私を母さんが抱き上げた。

「もうお眠の時間かしらね」

 ポンポンと優しく私の背を撫でる母さんの手はとても暖かくて、その声はとても優しい。

 そして、心地のいい揺蕩いの中に浸る私を抱えて母さんが向かうのは、私たちの種族が最も大切にしているらしい場所であり、人間の部屋でいう寝室に当たる所。

 そこは地上から消して見えないように隠れた場所にある、深く深く掘られた地下の大きな空洞。その真ん中にあるのは、太く大きな柱。

 母さんがその柱に近づけば、その柱には肉体美を誇る人物像が多数彫られていることが分かる。…まあ、私が今『人物像』と例えたそれらは実のところ人物像などではないのだが。

「私と一緒に寝んねしましょうね」

 私を柔らかく抱きしめた母さんが、そのままその柱に寄りかかる。すると、ズブリスブリと沈んでいくその体。

 最初、母が私を抱きしめたまま柱に沈み始めた時は何事かと泣き叫んだが、今はもうそんなこともない。これは私たちの種族にとって、言うなれば快適な眠りに入るためにフカフカのベッドに潜るようなものだ。

 そう、眠りに入ると共に石のように硬化していく私たちの種族の体も、これが私たちにとっては正常で、何千年何万年という時を眠り続けるために私たちの種族が確立した体の仕組みなのだ。

「おやすみ、エアル」

 とろりとした母の声が私にそっと囁きかける。ピキリ、ピシリという体が硬化していく音を聞きながら、私はその囁きにふにゃふにゃと言葉にならない返事をして、そのまま睡魔に身を任せた。


(ーあとがきー
柱の種族に生まれ変わっちゃった主人公。
主人公がある程度成長した後に、ショタなカーズ様やらエシディシやらを出して絡ませたい。
第2部に突入したらジョセフやらシーザーやらと絡ませても私がとっても楽しいです…。
いつかこれを連載で載せたいと思いつつ、今はその余裕がないので、とりあえずこっちに載せておきます。)

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