短編集

□微睡む春は柱に眠る
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 ――生きとし生けるのも全ての中にあるらしい魂とは、不滅のものであるのか。

 そんなことを考えた時に、そもそも魂というものは本当に存在するのか、ということについては今回置いておくとして、少なくとも私は、魂というものは不滅なものであると信じている。

 例えば、よく怪談話なんかに出てくる幽霊や人魂。あれは死んだ人間の魂が機能を停止した肉体から抜け出し、ぼんやりと墓場なんかに浮かんでいるわけだから、死んでも魂が消えてしまっているわけではない。

 他にも、生きている内に良いことを続けていれば天国へ、悪いことをすれば地獄へ行く…なんていう話も、要は死んだ後の魂の行方を話をしているのだ。つまりそれは、少なくとも肉体が機能を停止した後も魂は無くならないという前提での話なのである。

 …まあ、実際のところは死んだ後の魂の行方なんて誰にも分かったことではないのだけれど。

 さて、何故私は突然こんなことを語りだしたのか。それは、まず私が現在進行形で私の身に起きていることについてかなり混乱しており、今の状況を少しばかり整理しようと思ったからである。

 ーー三日ほど前、ふと目が覚めた私の目の前には二人の人物がいた。一人は褐色肌の垂れ目がチャームポイントで、羨ましいほどグラマラスな体を持つ水着姿の美しいお姉さん。そしてもう一人は、同じく褐色肌の筋肉マッチョな見事な肉体美を晒す半裸のお兄さんだった。

 この二人は私からは全く見覚えがない人物である。…筈なのだが、何故か二人は慈愛を含んだ笑みを浮かべて私を覗き込んでいた。

 え、何?誰?…そう呟いた筈の私の口から零れた言葉は、何故か「あ、あう?う?」。

 混乱する私を他所に、今年で20歳になる私の体をお姉さんが胸の中に包み込むように抱き上げ″、お兄さんが私の紅葉の葉のような小さな手″を握った。そして、お兄さんの方が私に向ってこう言うのだ。

「麗らかな春の元に生まれたこの子には、春を司る女神の名を与えよう。…この子は、エアル。私たちの可愛い娘だ」と。

 この状況に頭がついていかず、思わず上げた悲鳴は「おぎゃあああ!?」という完全に赤ん坊のソレだった。…ああ、どうしてこんなことに?


 ――それから直ぐに気を失いように眠って、ふと意識が浮上して目が覚めた。その時に思い出したことがある。

 私は、死んだのだ。大学からの帰り道で、自転車で坂道を下っている時に、いつ壊れたのか自転車のブレーキが利かなくて、坂道を下った先にある道路にそのまま突っ込んだ私を…通りかかった車が撥ねたのだ。

 そう、私は車に撥ねられて死んだはずなのに。

 …つまり、何だ。私は次の生を受けたのだろうか?いや普通、生まれ変わったら生まれ変わったと自覚が出来るものなのか?…そもそもこの場合の普通って何なのか。私が『私』であると自覚している時点で本当に生まれ変わっているのか怪しいたころだ。というか本当に私は生まれ変わったのだろうか?いやでも、確実に私の体は赤ん坊のソレである。ということは、前世での私が今世にそのまま引き継がれたってことなのか?いや意味分からない…。

 私の思考は絶賛混濁のパニックである。…そうして冒頭に戻るのだ。

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