短編集

□成就した彼の思い
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 僕には、年の離れた姉がいる。血は繋がっていないが、僕は彼女を実の姉の様に思っていた。

 彼女とは、僕がまだほんの4歳か5歳の頃からの付き合いで、その頃の彼女は13歳、中学生だった。

 彼女とは、よく家の近くの公園で遊んだ。今は''ハイエロファント・グリーン(法皇の緑)''と名付けられている僕の友だちを、僕と彼女の二人で考えた名前ーーグリーンから取って''グリ''とそう呼んで、僕と彼女とグリの三人で一緒にあの公園で色んな遊びをした。

 …彼女は、きっと僕のことを手のかかる弟ぐらいにしか思っていなかっただろうけど、僕はずっと彼女のことが大好きだった。

 最初の''大好き''は、自らの姉としてだった。いつも僕と遊んでくれる、優しくて賢くて魔法が使える凄いお姉ちゃんに、僕は憧れを抱いた。そんな素敵なお姉ちゃんが僕は大好きだった。

 しかし、その''大好き''がただ憧れから来るものではなくなったのは、いつからだったか。

 僕が幼稚園から小学校へ、そしてやっと中学校に上がり、その入学式を終えた後。とっくに成人していた彼女が「また大きくなったね」と、眩しものを見るように目を細めて僕を見て笑ったのを見た、あの時からだったか。

 それとも、高校に上がって暫くした頃。高校の帰り道で偶々会った彼女が、薄っすらと化粧をした大人っぽい顔で「仕事がね、ちょっと大変なのよね」と零したのを見て…その大人と子どもの違いを見せつけられたかのように感じて「ああ、僕はまだ彼女に追いつけないのか」と思った、あの時からだったか。

 …まあ、僕がいつから彼女を異性として好きになったか、なんてのはこの際どうだっていい。

 何故なら今の僕が好きなのは、結局のところ彼女なのだから。

 そう、僕は彼女を幸せを願うけれど、彼女を幸せにするのは僕がいい。他ならぬ僕が、彼女を幸せにしてあげたい。

 …その願いがハッキリとした時、僕は決めたのだ。

 彼女の隣に立っても恥じることのない立派な男になろう。彼女を支えられるだけの精一杯のことをしよう。

 だから。


「僕は、貴女と共に生きたい」

 オレンジ色に染まる、寂れた公園。そこは、昔はいつも彼女と僕とハイエロファントの三人で遊んでいた、思い出の公園だ。

 その真ん中で、今にも泣きそうな顔で口元を押さえている彼女を前に、僕は膝をついて彼女の左手を取る。

「やっとです。やっと貴女の隣で生きられるようになった」

 成人して、きちんと単位を取って大学も卒業して、ちゃんとした職にもつけた。その間に、彼女の隣に並べるようにと自分を磨いてきたつもりだ。

「ずっと、ずっと好きだったんです。他でもない貴女のことが」
「……ノリアキ、くん」

 僕の言葉に、彼女は震える声で言葉を紡ぐ。

「でも、私、もう30歳を超えてて、ノリアキくんよりもずっと年上で、とっくにおばさんで、」
「そうですね、確か9歳差ですよね」
「それに、若くないし、可愛くないし、他にも可愛い子が一杯いるのに、」
「貴女は可愛いですよ、そして綺麗だ。年なんか感じられないくらいに」
「でも、私、わたし、」
「どんな貴女でも、僕は貴女の全てが好きなんです」

 そう伝えれば、彼女はついにその目からポロリポロリと涙を零した。

 そんな彼女に、僕はジャケットのポケットの中から小箱を取り出し、彼女の前に差し出す。

「好きです、大好きです、愛しています。……どうか、僕と一緒に生きてくれませんか?」

 そして、その小箱を開ければーーその中にはキラリと輝く小さな宝石が一つついた指輪が入っている。

 僕は彼女ににっこりと笑った。すると彼女も泣きながらだったけれど、くしゃりと笑って、首を縦に振ったのだった。


(ーあとがきー
拍手のコメントで、花京院の夢小説のリクエストが随分前にありました。
ですが、正直な所を言うと確認するだけして、すっかり忘れていました…!
本当に申し訳ないです…。
そんな訳で、「ペリドットの輝き」から派生のお話の短編でした。)

 

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