お題
□授業の途中でトイレに行く
1ページ/1ページ
春はクラス替えのシーズンだ。
……まぁこのクラスのメンバーは変わらないんだけどね。
春休みが明けて、学年が一つ上がってから最初の登校日。
いつもより早く家を出て学校に向かった。周りには入学式にちらほらと見た顔がいて、まだ垢抜けない感じの一年生がはしゃぎながら登校していた。
「お、あけおめー名前!」
「…もう季節はずれですよ」
「あれ?そうだっけかァ?まぁいいや。元気か?名前」
2週間ぶりに見た飛段先生は風邪なんて無縁そうな顔をして、私に手を振りながら近付いてきた。
心なしか、周りの女子生徒(主に一年生)の目がハートになっているような気がするのはきっと気の所為じゃない。
「相変わらずのモテっぷりで」
「あァ?…そうかァ?」
周りを見回してから面倒くさそうに頭を掻く先生に苦笑いをする。
確かに顔は整っているけどきっとあの子達も後になって分かるはずだ。この人は顔"だけ"が良いことを。
「そういえばよ、デイダラちゃんが名前に渡したいモンがあるんだとよ!」
「私に?…なんだろう…」
「旅行に行ってきたらしいぜぇ。えーっと…何処だっけ…?イタ…イタ……」
「…イタリア?」
「そう、それだ!!」
だいぶ有名な国だと思うんだけど、本当に分からなかったのだろうか…。いや、本当に分からなかったのだろう。だって飛段先生だし。
「二人で仲良く登校とはな」
「えらく仲が良いですねぇ。気を付けて下さいね、馬鹿が移りますよ名前さん」
「あ!?馬鹿って俺のことかよ!?おい!」
「アナタ以外誰がいるというんです?」
「鬼鮫、馬鹿は放っておけ」
「あ…イタチさんに鬼鮫さん、おはよう」
「ああ…」
「おはようございます」
後ろから聞き慣れた二人の声が聞こえる。
振り向けば真顔で皮肉を言うイタチさんと、それに乗っかる鬼鮫さんだった。
挨拶をすれば返してくれたからよしとする。
そしてイタチさんも加わったところで周りの女子生徒が増えた気もする。相変わらずモテますね。
「そういえば、デイダラが旅行に行ったんだって」
「ほう…」
「良いですねぇ。私は一日中家でゴロゴロしてましたよ」
「お前は故郷に帰らなくて良かったのか?海に」
「…アナタは私を何だと思ってるんですか?」
「鮫」
ギャーギャーと異論を唱える鬼鮫さんといつも通り鬼鮫さんをイジるイタチさんに苦笑いをしている内に学校に着いてしまった。
下駄箱に向かう途中、職員室に寄るという飛段先生と別れ、靴を履き替えたイタチさん達と教室へ一緒に向かった。
その間も女子生徒の目はイタチさんに向いている。心なしか私は邪険な目で見られている気がするのだがこれを自意識過剰というのだろうか?
ガラッ
教室の扉を開けると、一番にデイダラを見つけた。
「デイダラー、久しぶりー」
「お、飛段から聞いたか?…うん」
「聞いたよー。イタリアに行ったんだって?羨ましいなコノヤロー」
ぐりぐりとデイダラの柔らかい頬に人差し指を突き刺していると、やめろ!と言いながらデイダラがポケットから袋を取り出した。
「はいよ、オイラからのお土産だぞ!…うん」
「えっ…くれるの?ありがと!!」
「名前が好きそうな物があったからな!」
そう言って自分の席に戻ったデイダラに、今度お礼しなきゃ…と心に誓った。
デイダラはやっぱりいい子だ。
チャイムが鳴り、初日なのにある授業を恨んだ。
ふと、珍しくもまだ来ていないある人物の席を振り返って見た。
あの角都が遅刻をする筈が無いのだが、調子が悪いのだろうか?
「飛段ー、角都は?」
「え、角都来てねぇの?!」
……本当にしっかりしてよ、先生。
少ししてから角都が来た。
理由を尋ねられれば「バイトの日程変更をしてもらっていた」のだとか。偉いよね、角都…少しは私も見習おうかな。
「おはよう、角都」
「…ああ」
いつものようにぶっきらぼうに返される返事に気にする事もなく、前を向く。まぁ不器用なんだろうなって思うくらいだ。いつも誰に対してもこんなだから。
「じゃー授業始めんぞー。ということで今日は自習!」
「またかよ。そろそろちゃんと授業しろよ…うん」
「馬鹿も馬鹿なりに授業しろってんだ。俺達の成績が悪くなるだろうが」
自習と告げた先生に、早速デイダラとサソリが食って掛かる。二人の言い分はもっともだ。
心の中でサソリ達の言い分に頷きながら、自習の用意を進める。
「なぁなぁ名前ー、喋ろーぜ。飛段の馬鹿が儀式やってるからよ…うん」
反論するのを諦めたデイダラがはぁ…とため息をつきながら後ろを向いてきた。デイダラ達の苦労も虚しく…大方、いきなり始めだした飛段先生の儀式がグロ過ぎて見てられないんだろう。一番前だし、今此処からでもチラチラ見えてくる。しかも、何か先生は「気持ちいいぃ…」とかいってるし…!はっきり言ってキモイよ、先生!!
飛段先生の儀式はグロイ。飛段先生は(自称…っていうかほんとにそうなんだけど)不死身だから、心臓を一突きしても死なない。死んでもちゃんと生き返る。最初は勿論信じてはいなかったが、実際そういう現場を何度も何度も見てきたものだから信じざるを得ないのだ。
先生はジャシン教を信仰していて、何かを殺す事に祈りを捧げ儀式を行うのだという。さしずめ今回は虫を殺したとかそこら辺だろうな…。
仕方無く落ち込むデイダラを手招きし、大人しく(額に青筋が浮かんでいるのは見ないふりをして)自習する角都を振り返った。
「…何だ」
「飛段の儀式がグロイから、この時間話そうぜ…うん」
「断る」
「…別に角都が参加しなくても角都を挟んで話すだけだけどね」
「……前を向いて自習をすればいいだろう」
「アレが見えるから却下だな…うん」
「…ちっ」
舌打ちをすると角都は立ち上がり、飛段先生の元に向かった。何をする気なのかとデイダラと顔を見合わせると、徐ろに先生の心臓に刺してあった棒を勢い良く引き抜き飛段先生を窓から放り投げた。
(ぐちゃって聞こえたから、多分今の衝撃で飛段先生は死んでしまったと思う。)
「これでいいか」
「え?あ…ああ」
「…角都だから出来る技だよね。ある意味尊敬するよ」
「ふん…」
そして角都はそのまま何事も無かったかのように自習に取り掛かった。
それを見習い、デイダラと私も自分の机に向かう。
数分後、先生は生き返ったのか血まみれになりながら勢い良く教室の扉を開けた。(勿論この光景も見慣れたもので最早悲鳴の欠片も出やしない。…寧ろ一年生からの悲鳴が凄まじい。…可哀想に、トラウマになる人いるよ絶対)
「ぅおらァ!!角都ぅ!!よくも儀式の邪魔してくれたなァ!?」
「先生…落ち着いて……」
「てめぇはいつかジャシン様の裁きが下るぞぉ!」
「…神などくだらん。そんなものは金にならないからな」
角都はギャーギャーと血を撒き散らしながら喚く先生をフンッと鼻で笑うと、何事もなかったかのように机に向かった。
その一連の動作を最後まで見守った私達はそれぞれアイコンタクトをすると、何を言うでもなくただ頷き行動に移した。
「先生」
「口を開けば金金って、てめぇはっ!!……ん?」
なんだ?と首を傾げる先生を頭の隅で「可愛い」と思ってしまったのは私だけの秘密だ。心に秘めておこう。(そして墓まで持っていくことにする)
もう準備は整った。後は私の合図だけ。
先生を見つめて一言。
「少し死んでてください」
それからどうしたかって?
……さぁ?皆さんの想像にお任せします。
授業の途中でトイレに行く
(うちのクラスの場合は)
(大体日常的に担任に八つ当たりをします)