心なき狗と、名の無い死神と。

□貴方に告げるプロローグ。
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其れは、もう何年も昔の記憶。

少年の僕(やつがれ)は報復すべき相手を追い、大地を駆ける。

大事《だった》仲間の為、仇を殺す為に。

妹の助力によって一ヶ月の安静を必要とする手傷で済んだとしても、痛いとは思わない。

大事だった仲間の為、仇を殺す為。

大地を駆け、
茂みを掻き分け、
少し道が開けた所で。

一刻も早くと走り続けていた足並みは止まった。

黒。

一言で言うなら闇に染まった少女。

少女はその体に見合わぬ大鎌を右手に佇んでいた。

まるで死神の様だ。

僕を待つ、死の使者。


「何故、此処に居る」

そう尋ねると、少女はゆっくりと此方を向いた。

「…わかりません」

喋り口調から幼さを感じた。

「…名は」

「…しりません」

「記憶が無いのか?」

「それは、ちがいます」

「では、何故」

「なまえがなくても、いきることはできました。ここにいることも、りゆうはありません」

「……」

その言葉に、感情は介入されていなかった。

今までの僕と同じ。

見知らぬ少女に僕は、何故か共通した何かを見出す。

「あなたは、りゆうがあるのでしょう?」

「…そうだ。僕にはやらなければいけない事がある」

「そのために?」

「ああ」

「…わたしにはりゆうなんて、ありませんから」

無表情に言うその顔にも、僕は同じだ、と思った。

だから

「…なら。僕と共に地獄まで着いて来てはくれぬか?」

そう言って僕は、少女に向かって手を差し出した。

「今日から其方は、芥川暗里。僕の妹だ」

憎悪とは別に芽生えたもう一つの感情。

【気付かぬ、恋】
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