いつも、あなたを。

□唐突に出会う池袋の日常。
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「…くそ、変な奴拾っちまった……」



-時は遡り-


「あ"ー……」
「大丈夫か?」
「大丈夫だったらこんなため息ついてないっすよ…」
「…だよな」

いつもの仕事帰りの道、池袋にしては珍しい小川の近くを歩くのは借金取りの二人。
いつもと何も変わらない筈の日常は今日で呆気なく崩れ落ちた。

「…?おい、静雄。なんか川に何か流れてないか?」
「……?」
何だろう。


くてん、と力無く漂うソレがやけに生々しい。
「おい静雄!ちょっとアレ引き上げるぞ!」
「何でオレが…って言ってる場合じゃないよな」

急いで川を渡り、ゆらゆらと流れるその人をトムさんと二人で引き上げた。

「息してるか?」
「…一応生きてはいるみたいだが、何かあったのか…?」
「分かる訳ねぇだろ」



「……っぷはぁ!」
しばらくするとその人は口に入った水を吐き出しながら目を覚ました。
「あ!大丈夫か!?」
「ん…?おや」
「何で川なんかに流れてたんだよ」
「…あぁ、キミたちだったのかぁ。ボクの入水自殺を邪魔したのは」
「はぁ…って、入水自殺!?」
一瞬耳を疑った。
コイツ、入水自殺って言ったぞ!?

「そんなに驚く事かぃ?ボクは死にたかったから入水自殺という実に簡単、道具も何も要らない自殺を試みたらキミたちに救われてしまったのサ」
「……はァ!?」
狂ってるんじゃないか?コイツ。

「いやぁ、まさかこんなチンケな川を見てるヒトも居もんだねぇ」
「…何だコイツ」
「ボク?ボクは田奈宮 凛花。ただの自殺願望者サ〜♪」
「自殺願望者にただも糞ったれも無いだろ」
「…ん、それもそうだ」
勝手に納得して頷く。

「ところで君たちは誰だい?」
「オレは田中トム」
「…平和島静雄だ」
「…あぁ、君が噂の平和島君なんだね!確かに改めて見ると迫力あるね」
地味にイラつく言われ方だがこの際気にしない事にする。
「自動喧嘩人形。敵に回しちゃいけないとか、何とか。他殺は興味無いけど一発で逝かせてもらえるなら良いかもねぇ〜」
「た、他殺」
トムさんがぶるるっ、と身震いする。心無しかオレを向いて言ってるのは気のせいか…

「うーん、今回は逝けると思ったのになぁ。お陰で家売り飛ばしちゃったよ」
「「え」」
「…よし。もう一回飛び込もう!という訳で次はキミたち、邪魔しないでくれよ?」
「…な、誰が自殺を見逃すかよ!?」
「えぇ、そこは見逃してほしいなぁ。それに家無いんだけど?」
「…おい静雄」
「何ですか、トムさん」
「家空いてるか?」
「…空いてますけど、ってまさか」
「凛花君、家が無いなら静雄にしばらく停めてもらうと良い。だから自殺するな」
「ナルホド!だけど遠慮するよ。そもそも自殺するから家は売り飛ばしちゃったんだからね。それにボクは女だ」
「あぁ、そうか…女!?」
「そうだよぅ♪」
「……トムさん、やっぱオレは停める気無いっす」
「ほら、平和島君もそう言ってるじゃぁないか。では、ボクはもう逝くよ?」
「(逝く!?)待て!?ちょっと待て!!?」
「じゃぁ田中君はボクをどう引き止めるんだい?」
「ぅ…し、静雄」
「…チッ、おい…田奈宮。今からオレん家来い」
「あれ?平和島君はボクを停める気無いんじゃぁなかったっけ?」
「(ウゼェ!!)あぁクソ!良いから来い!」
「うわっ、とと…腕を引っ張らないでくれよぅ。取れちゃうじゃぁないか」
「んなもん知るか!」
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