心なき狗と、名の無い死神と。

□貴方に告げるプロローグ。
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「あくたがわ、あんり…芥川、暗里…」

「不服だったか」

「…うれしいです。わたしのことをみんな、《死神》とよびますから」

「確かにそうも見えるが、幼い死神などいないだろう」

「それも、そうですね」

暗里の顔が初めて綻び、何故かその表情に僕は心苦しくなる。

暗里は持っていた大鎌を如何やってか、闇色のヴァイオリンへと姿を変えた。

「其れが、暗里の能力か」

「それだけじゃない」

「…行くぞ」

ぶっきらぼうに言い、さっさと歩き始めると暗里も足を早めて付いてきた。

「本当に来るのか?」

「いままで《死神》と言われたわたしにあなたはなまえをくれました。わたしはあなたのいもうと、芥川暗里です」

「そうか…走るぞ」

「はい」

早めた足をさらに早め、一応暗里が付いてこれるようには、と思い加減するが、

「えんりょしなくていいです。ちゃんとついていきますから」

寧ろ僕よりも速く、暗里の方が加減して走っているのが分かる。

年下に負けてなどいられない。

全速力で暗里の隣をひた走った。

仇を殺したら、きっと暗里も狙われるのだろう。
僕の為だけに名も無かった暗里まで殺されるのは少々後ろめたくもあった。




しかし僕の願望は、一生叶わぬものとなった。

「今晩は、善い夜だね」

包帯を巻いたその青年は林道の切り株に腰掛け、

「何だ……此れは、一体」

その足元には殺すべき六人の無法者たちがすでに生き絶え、無残な骸と化していた。

「……」

それをつまらなそうに暗里は眺めて、やがてその目線を青年へと向けた。

「あなたは、あくま?」

「悪魔?まさか。自己紹介をしよう。私は太宰。ポートマフィアの太宰治だ」

太宰……

この自分と一回りしか違わぬ男が、ポートマフィアの遊撃隊に名を連ねる鬼才の徒だと?

「…僕は」

「知っているよ、芥川君だろう?君を待っていた…尤も、その隣に居る可愛らしいお嬢さんは知らないけどね」

「わたしは芥川暗里。芥川さんの、いもうと」

「そうなのかい?」

その疑問の言葉は僕に向けられたものだった。が、自分の喉をついて出たのは、低い唸り声。

「何故殺した」

「君はこいつらを殺したかったのだろう?だから君は此処に来た。取引現場へ向かう道で、待ち伏せが可能な地形となると、この林道が最適だからね」

太宰はその後と太宰の推測をすらりと述べると、薄く笑いを残して僕を見る。

だが僕には最大の疑問が残った。

「ぽーとまふぃあのあなたが、なぜじぶんのなかまをころしたの?」

暗里が目敏く僕の表情を読み取って太宰に投げかける。

「実は今日昇進してね。幹部の一隅に列せられたのだよ。マァ肩書きなど、責任と面倒が増えるばかりの代物だけど……とは云え、肩書きにも一つ善い点があってね。

幹部には自分直轄の部下を、自由に雇い入れる権限が与えられるのだよ」

「…まさか」

ほぼ言葉だけで暗里が驚く。

「この人たちをころした理由を訊いたね?簡単だ、君への手土産さ。君はどうも金子や地位には靡きそうにない、だからこれが契約金だ」

聞いてはならぬ。この男は悪魔だ。聞いては…

暗里がヴァイオリンを大鎌へと変え死者に突き立てた。

「君をポートマフィアに勧誘したい」

その言葉が終わるか終わらぬかの内、自分は刃を突き立てるべく駆け出していた。

それに反応して暗里も大鎌を大きく振るう。




「《さあ、骸ども。踊り出せ》」
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