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□別れ
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「ごめんなさい、木兎さん。俺はもうあなたを愛せません。」
「……なんで?ずっと、ずっと愛し続けるって、言ってたじゃねーか!!」
ボロボロと涙をこぼしながら木兎は叫ぶ。
いつも、いつもそばで自分を支えてくれて、元気づけてくれて、慰めてくれて、応援してくれて、笑ってくれていたのに、どうして?
言葉にできないもどかしさに余計に涙が出てくる。
「俺は、お前がいないとダメなんだよっ!一緒にいてくれなきゃ、俺は生きていけねぇんだ!赤葦ぃ…」
すがるように赤葦を見る。
すると、スっと目を外される。
そんなことにもショックを受け、悲しくなる。
「もう、一緒にはいられません。…あなたは俺がいなくても大丈夫ですよ。一人ではないんですから」
「一人じゃなくても、赤葦がいなきゃヤダっ…!」
駄々をこねるように言うと、苦笑することがわかった。
だって、俺の一番は赤葦で、一緒にいないなんてことは絶対にありえないことで、あってはならないことで、それで、俺とずっと…
堂々巡りをしそうな思考を赤葦の一言で消えていく。
「…あなたには、婚約者がいるんでしょう?俺がいなくても大丈夫ですよ」
「な、なんで…」
知っているのか、その問いは発せられることはなかった。
驚きで顔を上げたとき、赤葦と目が合う。
そしてそのまま声が出なくなったのだ。
だって、赤葦が優しく笑っていたから―――…何も言えなくなった。
「俺はいろんなことを知っているんですよ。あなたが俺に隠そうと必死になっていたことも、婚約者のことも、俺は木兎さんのこと、たくさん知っています。」

「そして、それを知っている上で決断を下しました。…いや、決断したんじゃない。自分の中でいつの間にか思っていました。俺とあなたは一緒にいるべきではないと、」
「っ、俺は!…お前と一緒にいたいよ!」
ギュッと赤葦を抱きしめる。どこにも行かないように、自分から離れていかないように。
「…木兎さん、そう言ってもらえてとても嬉しいです。…でも、」

「本当は、わかっているでしょう?」


囁くように言った赤葦の言葉に頷く。
わかっていた。このままではいられないということを。
いてはいけないということを。わかっていた、でも!

「それでも、お前といてぇんだよ!!一緒にいたいんだよ!!」

泣きながら叫ぶ木兎に寄りかかりながら、赤葦は笑う。
とても幸せそうに、嬉しそうに、安心したように、泣きそうに笑った。

「本当に嬉しいです。こんなにも想ってもらえて…。でも、わかっているなら、俺から離れてください。そうしないといけないんです。ちゃんと自分の意思で俺から離れてください。」
静かに言う赤葦の言葉に黙って従う。
ゆっくりと時間をかけて、赤葦から一歩だけ離れる。
それ以上は離れたくない。
けれど赤葦は木兎からさらに二歩後ろに下がる。
「いいですか、木兎さん。俺たちの距離はこのくらい、これ以上遠くも近くもなりません。そして、俺たちの関係は今から、先輩・後輩の仲に変わります。他の人よりちょっとだけ距離の近い、仲の良い関係になります。…それ以外は何も変わりません。今まで通り俺の家に遊びに来てもいいですし、泊まりに来てもいいです。でも、それ以上はありません。絶対にしてはいけません」
「………わかった」
赤葦の精一杯の妥協案に涙を拭きながら頷く。
ぐっと顔を上げ、赤葦に笑いかける。
「これからもよろしくな、…赤葦」
「はい、木兎さん」
この時になって初めて赤葦は涙を見せた。

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