いろのゆめ。
□寡黙青年の異世界生活
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【初めの一刀】
こんのすけによって転送された先は、本丸と呼ばれる場所だった。
(確か……日本家屋とか、武家屋敷とか……そんな、名前だった……ような……)
目の前の和風建築を前に、本で呼んだ知識を思い出しながら、カルマはこんのすけの後ろを歩いていた。
やがてこんのすけはある部屋の前で止まり、その中へ入っていった。
続いて入ると、目の前に台があり、その上に五種類の刀が置かれていた。
「審神者様、こちらから一振お選びください」
「……1つしか、選べないの……?」
「はい。ですが、選んだ一振以外は後々手に入れることが可能ですので、ご自由にどうぞ」
そう言われても、カルマは刀について疎い。
その身にカケラとして宿しているユキアネサや鳴神、六三四、ムラクモといった刀の形をしたアークエネミーならまだしも、どれも見覚えも聞き覚えもない刀達から1つ選べというのは難しいことだった。
カルマはこんのすけに刀の説明を聞くことにした。
こんのすけは1つ1つ丁寧に説明してくれ、どんな能力が優れているか、どんな持ち主がいたかなども教えてくれた。
新選組の沖田総司が所有していた、隠蔽や必殺が高い[加州清光]。
細川忠興が所有していた、全体的にバランスのいい[歌仙兼定]。
贋作の多いとされる"虎徹"の真作で、生存と統率の高い[蜂須賀虎徹]。
坂本龍馬が所有していた、打撃と衝力の高い[陸奥守吉行]。
そして、目にした時からカルマの目を引いていた、真ん中に置かれた刀。
「……こんのすけ、この刀は……?」
「そちらは[山姥切国弘]と申します。長船長義作の[山姥切]の"写し"として堀川国弘によって作られた刀で、堀川国弘の最高傑作と名高い刀です。この中で最も機動が高く、[陸奥守吉行]と並ぶ衝力を持っております」
「……写し、って……なに……?」
「"写し"というのは、ある物に似せて作られた物。贋作と混同されがちですが、こちらは"偽物"という意味ですので、"写し"とはまた違います。レプリカと言えば良いでしょうか」
───本物に似せて作られた物。
(……なら、僕も……なのかな……)
カルマは[山姥切国弘]を眺めながら、ぼんやりと考えていた。
彼自身、似たような生まれをしたものだから、思うところがあるのだろう。
「……こんのすけ……この、[山姥切国弘]にする」
「分かりました。……では、こちらへどうぞ」
カルマが刀を手に取ったのを確認すると、こんのすけは台を消し、部屋の奥へと案内した。
「さあ審神者様、早速刀剣男士を顕現させましょう」
「……どう、やって……?」
「ご自身の霊力を込めれば良いのです。強く念じれば、刀剣男士はそれに応えてくれます」
「……霊、力……」
カルマは目を伏せ、言われた通り強く念じてみることにした。
うまく霊力が込められるといいと思いながら。
数秒経ち、カルマは伏せていた目を開き、刀を鞘から引き抜いた。
すると、目の前に1つの桜の花がひらひらと落ち、刀身に触れた。
瞬間、眩い光が刀を包み、人の姿に形を変えた。
「……山姥切国弘だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」
目の前に現れたのは、1人の青年だった。
翠色の瞳と、その瞳を隠すように伸びている金色の髪。
学生服のような服装と、破れたところのあるズボン。
そして、その美しい容姿を隠すように少し薄汚れた白い布を身に纏っており、右手には先程までカルマが手にしていた刀を持っていた。
(……あ、れ……)
急に激しい目眩に襲われ、意識が飛びかける。
立っていることすらままならず、体から力が抜けていき─────そのままその場に倒れ込む。
意識が完全に沈む直前に見えたのは、焦ったように自分を呼ぶ"彼"の顔だった。
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