裏・御伽草子

□【8】「強欲」の帰還、波紋呼ぶ情報
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庭の片隅では、エドワードが就寝していた。

頑丈な石造りの塀に大きな背中を預けて、瞼を閉じている。

その周辺には、部下と思わしきピヨ達がスピースピーと寝息を立ててコロッと転がっている。


薄暗い空…覆っていた雲が徐々に遠のき、薄い黄色の月が現れる。

月明かりに照らされ、エドワードは薄らと瞼を開けた…。

ふぁーと欠伸をかいて頭をぽりぽりと掻く。

少し冴えた眼で、夜空に浮かぶ月を眺める。



「…綺麗な三日月だ。そうおもわねぇか?」



エドワードは、振り向く事無く『誰か』に話を振った。

だが、部下達は目を覚ます事無く夢路に居る…。

彼は目覚めた瞬間に感じ取っていた…第三者の気配を。


「ハッ、年寄りの癖に気付くのは早いな」


近くの木の枝に全身黒い服装の長い黒髪の男性が足を組んでいた。


「グララララ、その口の悪さも健在のようだな…グリード」


名を呼ばれた男性――――グリードはくくっと喉を鳴らしながら笑う。


「久しぶりだな。じーさん」

「真夜中に帰ってくるとは、とんだ不良息子だ」


「早速、説教かよ。わりぃけど、俺は用事があるんだ。後にしてくれ」

「どんな用事だ」


「宵闇の幻神様にご報告だ」


ニヤリと口端をあげていうと、グリードは跳躍して屋敷の屋根へ飛び移った。

エドワードはふぅーと息を吐くと、ドシッと地面に腰をおろした。


「…やれやれ。日が明ける前に屋敷が半壊してなけりゃいいがな」


エドワードはそう呟くと、再び大きく欠伸をして両目を閉じた。




◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇





台所では、イオンとさくたろうがお夜食の準備をしていた。

さくたろうは、冷蔵庫からハムやウインナーなどを取り出す。


「イオン、ハムとウインナーどっちがいい?」

「ウインナー!」

「うりゅうりゅ、たこさんウインナーだね♪」


イオンは、炊いたご飯を適量手に取るとぎゅぎゅっとにぎっていく。

ヴァンスやイタチと違って、まだまだ初心者だが、何回も練習して簡単な料理は出来るまでになった。

やや丸みが残るものの、三角おにぎりがひとつ完成する。


「おにぎりの具は鮭と…他には何が良いかなー」

「僕はふりかけをかけるね〜」


イオンが中身の具を悩む傍ら、さくたろうは自ら握った小さめのおにぎりに市販のふりかけをパッパッとかけていく。

炊飯器には、まだまだ炊きたてのご飯が残っている。

二人は、おにぎりをたくさん作ろうとしている。


彼らの主は、ああみえても隠れ大食漢なのだ。

食べるスピードは一般人並だが、食べる量は本気を出せば米俵2つ分は軽くいける。

夜食の際は、仕事関係で思案している事もあり、三食時以上により箸が進んでしまう。

だから、多めにつくって置く必要があるのだ。


おにぎりを作り終えると、イオンは次におかずを調理し始める。

熱した専用のフライパンにといた卵を流しいれる。

向かい側から手前に卵を巻いていく。

はい、これでほかほかの卵焼きの出来上がり。


卵焼きを切り分けていくのは、さくたろうの役割だ。

ぬいぐるみでも持てるお子様用の包丁を特注で作ってもらった。

ホカホカの卵焼きを慎重にトントンと一口サイズに切り分けていく。

イオンは、その合間に先端を切り分けたウインナーを茹でていった。


「よし、できた!」

「わーい♪」


一時間かけて、山盛りのお夜食を完成させた。

おにぎりと卵焼き、たこさんウインナー…【夜の黄金ランチセット】だ。


「さてと…運ぼうか」

「そうだね!」


「さくたろうは卵焼き。僕はおにぎりだよ」

「うんしょっと…」


さくたろうは、黄色の卵焼きを綺麗に盛り付けした中皿を両手と頭の上で固定するように持ちあげた。

おにぎりとウインナーを持ったイオンと共に、それらを平らげる主の元へいった。







「あー…なんつーか…」

グリードは、呆れ交りの言葉を発した。

雇い主…もといヴァンスの書斎を「おぅ、帰ってきたぜー、ご主人様よぉ!」と

半ば面白おかしく喧嘩腰にノックなしでバッと開いた。


だが、彼は視界に入った光景に…一瞬目を硬直させた。

開けた瞬間に、目に映ったのは雪原のような白いきめ細やかな肌…の背中を見せている栗色の長い髪の美女。

何事かと解放された障子を目にした雇い主ことヴァンス。

グリードの姿を確認するや眉を大いに寄せて睨みつける表情。


全容を端的に明かすなら、ヴァンスが不法侵入した輩(猫仮面)の黒装束をはぎ取り、彼女の顎を人差し指と親指で持ち上げている。

現在進行形で『尋問』の最中だったのだ。


「お取り込み中だったか?」

「……」


次の瞬間、書斎がピカッと眩い光が放たれ、大きな爆発音が生じた。

その騒音にエドワードは薄ら目を開けた。


(やれやれ…明日一日かけて修理するしかねーな)


そう思いながら、ふぁ〜と欠伸をして寝なおした。

グリードは、突然の魔法攻撃に持ち前の能力で耐えきると、雇い主に食ってかかった。


「あっぶねぇな! おい!」

「ノックせずに入ったお前が悪い」


もう一発喰らうか? と言いたげにヴァンスは手から闇の力を込めていく。


「OK、OK…悪かったよ。…ってぐふっ!」


静かに憤怒している雇い主の気迫を目にして、グリードはやばっ…という心情を顔に出した。

この男は一度怒らせると、手のつけようがない位敵わない事を身にしみて経験しているからだ。


両手をあげて降参のポーズをしたグリード…

だが、雇い主は容赦なく顎目掛けて足蹴りをくらわした。

その足蹴りで見事な弧を描く様に吹き飛んでいくグリード…。

庭の中大の池にバシャンッと波を立てて着地した。


「…阿呆が」

「…っておい! 間髪いれずに足蹴りか!?」


パシャッと池から脱出し、ヅカヅカと戻ってくるグリード。

頭から足まで全身水浸し状態だ。



「折角、俺が直々に仕入れた情報を教えてやろうと出向いたのに…

この扱いはねぇだろーが!」


「ほう…じゃあ聞くが、俺が先程捕えた侵入者の躯をガン見していたが…

率直にどう思った?」



態度を軟化するどころか逆に顔に気迫を出して問い詰める雇い主。

グリードは、あーと頬をポリポリと掻きながらこう言った。


「なかなか魅惑的な女だな…つーか、捕まえたんだったら俺の女にしていいか…っと!」


すかさず飛んできた風属性の衝撃波をかわした。

三度目も簡単にやられてしまう程、彼はバカではないのだ。


「素直に感想言ったじゃねーか! なんだよこの理不尽な扱いは!?」

「暫くそこで頭を冷やせ」


そう言うとパタンと障子を閉めきった。

青筋を立てて「あのやろー」と拳をワナワナと奮い立たせるグリード。





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